伝統芸能が直面する苦難-国立劇場おきなわ コロナ禍の模索と展望(下)
- 2021/3/15
- 新型コロナ・医療
劇場の新たな試み
中止になったからといって劇場職員も手をこまねいている訳にはいかない。どうにか踏ん張りも必要と考えて、新たに動画配信も開始した。
はじめに、5月に中止した『古典音楽の美』に出演予定だった人間国宝・中村一雄氏の独唱を収録し配信した。 開催中止を決めた『沖縄芝居鑑賞教室』では、公演予定の9月17日当日に実際に舞台で無観客上演し、後日アーカイブ配信した。
翌年以降への可能性も探り当てようと努力を重ねる。沖縄芝居『黒島王物語』は敢えて第一幕だけを上演・収録した。前半だけを配信することで、翌年以降全編上演の際の予告編として観てもらえるからである。劇場は舞台を肌で感じてもらうことが本分なので、映像配信はメインのサービスにするつもりではなく「まだ劇場に来た事のない人も、舞台映像を通して興味を持って頂き、今後実際に足を運んでもらえるきっかけとなれば」と位置づけている。
琉狂言『墨塗』など劇場が保管している記録映像も一部配信したが、記録映像はあくまで記録を目的として撮影されていて配信向きではないため、配信用の新規撮影を行った。
実は、配信用上演を実施したのにはもう1つ理由がある。舞台技術スタッフの仕事を作るためでもあったという。
「正直なところを言うと、出演者よりも裏方、スタッフが追い込まれている。役者の皆さんは他に収入を得る仕事を持っていることが多いが、舞台技術スタッフは専門職なので公演が中止になると収入源を失うことになる。何ヶ月も舞台の仕事が無いからと舞台以外の仕事へ転職されてしまっては、いざコロナ禍がおさまった時にスタッフが足りず舞台が再開できないことになってしまう。そのような危機も感じ、劇場予算を少し切り崩してでもどうにか出演者・スタッフの収入になるような仕事を作らないと、という思いもあり、記録映像の利用ではなく収録用の上演を実施した」と明かす。
2021年に向けて
嘉数氏は2021年の計画について「正直なところ財政的に厳しい面がある」と苦渋をにじませた。
劇場の運営費は公演チケット収入や貸し劇場の収入で賄っているところが大きいが、2020年は自主公演数が減ったうえ、開催できたとしても客席数は半数に減らしている。劇場を借りる人もキャンセルが相次いだため、年間事業収入が激減。そのため翌年の舞台予算が限られてしまうのだ。
今後も感染の収束が見通せない中での活動で変動が多いだろうことは見えているので、毎年作成している公演スケジュールを記した年間予定表は、半年ごとの発表に切り替えることにした。
それでも嘉数氏は「公演回数が減ったぶん、私の気力と体力は余っていますから」と笑いながら、今後は舞台以外にもお客に楽しんでもらえるサービスができないか日々模索中だ。