伝統芸能が直面する苦難-国立劇場おきなわ コロナ禍の模索と展望(上)
- 2021/3/13
- 新型コロナ・医療
続く3月21日新作組踊『春時雨』の時期は、 県内の感染状況が比較的落ち着いていたので稽古は続けていたものの、開催するかどうかはギリギリ前日まで悩んだという。「当日までに県内で1人でも感染者が出ればやめようと思っていました」と話すが、当日までに新規感染者はおらず、上演に踏み切った。本番終了後に感染者が発表されたのは不幸中の幸いのようでもあった。
ただ、その後4月の『琉球舞踊鑑賞会』組踊『賢母三遷の巻』公演は両方とも中止になった。
感染第一波をふまえての、最初の緊急事態宣言は4月20日~5月31日であった。県内でも、首里城や美ら海水族館などの観光施設や、博物館や美術館など文化施設も休館や休業などを余儀なくされた。国立劇場おきなわの職員も、自宅勤務やテレワーク、シフトを組んでの時差出勤を行なっていたという。
自粛の甲斐もあり5、6月は感染が沈静化し、沖縄も新規感染者ゼロの日が続いた。
かといってすぐ舞台を再開できるものではない。舞台制作は、稽古や大道具制作、宣伝活動など遅くとも数か月前から始めなければ間に合わないのだ。自粛中は稽古ができず、公演準備が進められなくなったため「4、5月の自粛期間中だけでなく、自粛期間の翌月までも中止にしなければならなかった」と語った。
出演者の意向を尊重
特に、大人数や大掛かりであればあるほどリスクは高い。
6月予定の沖縄芝居『武士松茂良と平安山次良』は3月に出演者が顔を合わせ、主要メンバーが宣伝用の写真撮影も済ませて台本の読み合わせも始めていたところだったが、協議のうえ上演を諦めた。
「毎回中止の判断は劇場側が一方的に決めるのではなく出演者とも話し合うが、意見はそれぞれに差がある」と嘉数氏は話す。
何とかして上演したいという人もいれば、自ら降板を申し出る人もいるし、早く中止を決めてほしいという人もいる。沖縄の役者は舞台活動だけで生活している人が少なく、それぞれ別の職や仕事を持っているのが背景にあるからだ。それだけに「稽古中にもしものことがあれば職場に影響を与える可能性があるから、出演以前に稽古自体も参加が難しい」といった声にも劇場として理解を示した結果でもあった。