誰にどんな価値を提供するのか 沖縄観光の「質」向上に必要なこと(1)

 

消費者の選択は直感と感動に基づく

 加藤氏は「市場構造を決定している本質は消費者のプレファレンス(好意度)にある」と定義する。この「プレファレンス」の向上こそが沖縄観光の質を高めることに直接的につながるのだという。

 端的に言えば、マーケティングの成功とは、自分が提供した商品やサービスを消費者が選択すること。
 消費者は何かの購入を決める際、頭の中で出目に選択肢が刻まれたサイコロを思い浮かべて、振る。「ある選択肢がサイコロの面を占有する比率が高くなるほど、選ばれる確率が上がる。これが消費者の脳内にブランドが選択肢として定着し『ブランド化』できた状態になる。その時の選択は直感と感動に基づいている」。
 ここで言う直感と感動がすなわちプレファレンスだ。

 その向上のためのヒントとして、マーケティングに携わったUSJでのケースを例に挙げながら、①調査・分析を基にした徹底的な消費者理解、②消費者を見極め限られたリソースの配分も踏まえた戦略的なブランド設計、そして③中長期での戦略を立案・実行することの3つの要素を踏まえて事業を進めていくことの重要性を説明した。その上で「“誰にどんな価値を提供するのか”ということを1つずつ重ねていくことがプレファレンスの向上、ひいては成功につながる」と重ねて強調した。

会場の他にオンラインでも約200人が講演を視聴した

持続可能な事業の創出で貧困克服を

 沖縄が抱える課題について加藤氏は、上記で述べてたようなブランド強化をした上でリゾートとして選ばれる確率を高めての観光客獲得に取り組まねばならないことを繰り返し強調し、筆頭として挙げた。続いて、観光客の滞在時間を伸ばすことと消費単価の増加、さらにマーケティング人材の育成も急務であると付け加えた。

 また、社会的課題では貧困問題に触れ「沖縄は全国でも貧困率が高いのが現状。地域の人たちが豊かさを感じられなければ、本当の意味での観光産業の発展も難しい。持続可能な事業を創出することで、貧困の悪循環を断ち切っていくことを考えていかなければならない」と語った。

 次回は加藤氏と星野リゾート沖縄読谷事業所総支配人の澤田裕一氏、OCVBの下地芳郎会長によるパネルディスカッションの様子を紹介する。

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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