“命の塩”ぬちまーす、需要急増の理由は? 新工場完成で製造能力2.5倍に
- 2023/4/11
- 経済
広大な青い海を見下ろす宮城島の高台で製塩業を営む「ぬちまーす」(うるま市、高安正勝社長)が、昨年末に同社敷地内に第2工場を完成させた。今後、本格稼働すれば製造能力が従来の2.5倍に増える見通しだ。背景を聞くと、社名と同じ商品名の塩「ぬちまーす」は「この1年は全然在庫が足りなかった」(高安社長)という。1997年の創業から四半世紀。なぜ今、需要が急増しているのかー。
ミネラルを瞬時に結晶化 特許製法
沖縄の方言で命を意味する「ぬち」と、塩を意味する「まーす」を組み合わせた造語であるぬちまーす。工場のすぐそばの海から吸い上げた海水を原料に、独自の特許製法「常温瞬間空中結晶製塩法」で作った真っ白な塩は粉雪のようにサラサラで、後味にえぐみがなく、さっぱりとした味わいが特徴だ。
作り方は、まず海水を濃縮濾過して不純物を取り除く。それを細かい霧状にして空気中に発生させ、温風を当てることにより水分だけが瞬時に蒸発し、ミネラルが結晶化して雪のように降り積もる。珍しい“塩の雪景色”は工場の見学窓から実際に見ることができ、連日多くの観光客らでにぎわう。
ミネラルとは、生体を構成する主要な4元素(酸素、炭素、水素、窒素)以外のものの総称で、代表的なものにカルシウムやカリウム、マグネシウムなどが挙げられる。体内で合成できないため、食物から摂取する必要がある。
ぬちまーすはこの製法を用いることにより、他の一般的な食塩に比べて塩分が少ない一方で、2000年には世界一多様な14種類のミネラルを含む塩としてギネス記録に認定された。ちなみに、現在の含有種は21種類。2018年には第6回健康医療アワード(日本健康医療学会主催)で3千アイテムのうちから5品目の優良商品に選ばれるなど、健康食品としての評価は極めて高い。
コロナ禍で健康志向に高まり
これまでは汗をかく機会が多い夏場に塩分補給をするための需要が多く、冬場に在庫をストックしていたが、近年は様相が変わった。年間を通して商品の引き合いが強まり、生産が追い付かなくなったのだ。最大の要因は、コロナ禍における社会の健康志向の高まりだという。高安社長が説明する。
「コロナウイルスが蔓延する中、暑さで塩が欲しいということだけでなく、ぬちまーすを食べて体にいいミネラルを補給し、病気に対する抵抗力を付けたいという意識が少しずつ浸透してきたんです。創業から25年が経過し、ずっと『ぬちまーすは健康にいい』ということを訴えてきて、ようやく消費者の方々に認められてきたと感じています」
その結果、ぬちまーすを使った味噌や醤油、お菓子などの加工品を製造するメーカーに卸す分を確保するため、ぬちまーす自体の商品については工場にある直営ショップで販売制限をかけ、新規の卸先への営業も停止せざるを得なくなった。
年間250トン製造可能 海外出荷増も見込む
新工場の建設自体は2021年の春頃から構想に着手した。コロナ禍で関係者との対面調整が難しかった事もあってなかなか計画が進まなかったが、22年3月にようやく着工にこぎ着けた。同12月に完成して現在は試運転中だが、今後本格的に稼働すれば、これまで年間約100トンだった製造能力が250トンに大幅に拡大できるという。
現在、出荷先は約40%が沖縄県内、50%超が県外、そして数%が海外。高安社長は「ずっと断らざるを得なかった販売店やメーカーさんに『もう大丈夫ですよ』とアプローチをかけていきたいです」と再び営業に力を入れていく方針だ。
さらに、海外出荷の増加も見込む。「コロナ禍に入る以前の3、4年前に動き出そうとはしていたのですが、ヨーロッパで日本の商品を売っている人からぬちまーすが欲しいという話があったんです。向こうは健康志向も強いので、中国やアメリカなどに加え、ヨーロッパにも本格的に出していきたいです」