00年代沖縄インディーズブーム再考(下)ヒューマンステージと共に

 

 しかし山田さんは「今の高校生の間でも、バンドブームになってきているんですよ。特にここ数年の盛り上がりはスゴイです」と話す。
 転換点となっているのが、2017年から始まった「ガクアルFESTA軽音楽コンテスト」だ。高校生向けの進路情報誌「ガクアル」の発行などを手掛ける株式会社ガクアルが仕掛けるこのイベントは、県内の軽音楽部で活動する高校生バンドにとっての甲子園的存在となっている。

「演奏スキル自体は上がっていますよ。上手になっています。大人も関係するイベントなので、暴れてマイク倒すようなヤツはいなくなっていますけどね(笑)。でももしかしたらみんな本当は(そういう衝動を)抑えているのかもしれないですよね」

 20代の若いバンドも台頭している。
「若い世代が頑張っているので、注目しています。お笑い風に言えば、沖縄インディーズの第7世代とも言いましょうか。オモイトランス、ヤングオオハラ、奢る舞けん茜、シシノオドシ、BUMBAなどがそうですよね」
 彼らの活躍や、高校生がバンドに親しむ姿に「光が見えてきたっていう感じがあります」と山田さんは朗らかに話す。

新たな形で音楽を「ライブハウス時代にはできなかったコラボ」も

 ヒューマンステージの閉店のきっかけは、やはり新型コロナウイルス蔓延の影響だった。
 「(沖縄でも陽性者が増えだした)2月3月は、ライブハウスにとってかき入れ時でしたがイベントが出来ず売り上げが落ち込みました。もしも今後、ワクチンが出来たとしても普通にこれまで通りにライブができるようになるまで、数年はかかるのではないかと。年も年だし、26年間もやらせてもらったから『一回閉めてもいいんじゃないか』と思いました」

 誰にも相談せずに、大切なことは責任持って、ヒューマンステージの中で自ら決めた。
 「本当は5月に閉めようと思っていたんですけど、配信ライブの予約を入れてもらって、今までお世話になったミュージシャンが集まってくれて最後の最後に花を持たせてくれました。いろんなことを経験させてもらいました」

 山田さんは形を変えて今も音楽に携わっている。イベントや配信の運営や音響で各地を回り「ヒューマンの山田さん」から「県内各地の山田さん」になりつつある。「ヒューマンステージで培った信頼があったからこそ、イベント監督としても声をかけてもらっています。今できること、音楽に関わること、全部手伝っていきたいです。最初の2カ月は大変でしたけどね」と笑う。

 「ライブハウス時代には出来なかったコラボもできています」とも話す。その一つが「子どもたちの練習や発表の環境づくり」だ。平日は那覇市内の児童館で子どもたちと接しながら、週末はイベントの現場で観客に音や楽しさを届けている。
 「たまたま防音工事で呼ばれた児童館に機材を持ち込んで、音楽をやりたい小中高校生のためにそのまま練習できる場所を作りました。いつも妄想の中で仕事をしているんです。『こんな音や照明があればカッコいいだろうな』と『子どもたちにこんなことしてあげたら喜ぶだろうな』はライブハウスも児童館も一緒。毎日エネルギーや刺激をもらいながら仕事ができてありがたいです。とっても楽しいですよ」

 ヒューマンステージにあった機材は今、うるま市にある実家に眠る。
 「本当はライブハウス、また作りたいけどね」
 そうぽつりと漏らした山田さんのハートの根底にあるのは、目の前の人にいかに輝いてもらうか、喜んでもらうか。ヒューマンステージはその名の通り、人間同士の喜びをたしかに生んでいた。

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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