興南高校野球部監督・我喜屋優さん(下) 沖縄・野球人伝説③

 

 するとその冬のトレーニングは効果てきめん。春にはレギュラーを獲得。人口2万人ほどの小さな町のチームとして、社会人野球の2大大会「都市対抗」で優勝、「日本選手権」で準優勝、どんな環境、状況でも逆境を味方に付けて勝てることを証明した。

 現役引退後はチームの監督となり、雪国で勝つノウハウを伝授。田中将大投手出身の駒大苫小牧高校野球部の香田誉士史(よしふみ)監督が、我喜屋監督の教えを請うてチームを優勝に導いたのは有名な話である。

 北海道で30年ほど過ごしそろそろけじめを付けようというタイミングで、興南高校から声がかかった。野球ばかりで家庭に関してほとんど任せっきりの奥様に反対されるかと思いきや「いってみたらどうなの?」と背中を押された。北海道出身の奥様を地元に残し、単身で行くつもりが「沖縄の良さを堪能する。ダイビングも楽しみます」と言われて夫婦で沖縄へ向かった。

ベンチからサインを出す我喜屋監督。2020年の県大会準決勝で

人間力を鍛えることで野球の質が変化

 気持ちも新たに母校に戻ると・・・野球部の寮をみて愕然とした。部屋は汚い、カビ臭い、食事もだめ。これでは勝てない。まずは生活態度の見直しからと、自分も寮に入り、遊びつくすと豪語した奥様は寮母になった。朝6時に起き、散歩しながら五感を鍛え、そして1分間スピーチ。周りを観察し変化に気づき人に伝えることは、己を知り、欠点を見つけ、進化する事に繋がっていく。人間力を鍛えることで野球の質がどんどん変化していった。

 2010年、人間力の集大成、大人の野球で沖縄初の春夏連覇を果たした。「あのチームは他の学校からもう勝てないと言われていた。技術云々より選手たちの心の根幹が大人だった。そしてとても謙虚で自分たちで考えて行動していた」。目に見えない努力を重ね、人に感謝し、うぬぼれない心が優勝に繋がった。深紅の優勝旗を手にし、大勢の県民が大きな拍手で、選手のおじぃばぁたちが涙を流して迎えてくれた那覇空港。「勝った喜びより、みんなの笑顔を見たことが何より嬉しかった」。

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