県企業、アフターコロナの経営着眼点 中小企業診断協会全国連合会、西里副会長

 
アフターコロナのあるべき企業経営について語る西里副会長=8日、浦添市

 新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが「5類」に移行して、6月8日で1カ月となった。「アフターコロナ」と言われるようになり、沖縄には県外、海外からの観光客が徐々に回復しつつある。

 そこで県内の景気や企業の現状、コロナ禍を経て今後必要とされる企業経営のスタイルなどについて、中小企業診断協会全国連合会の西里喜明副会長(CSDコンサルタンツ社長)に見解を聞いた。

―現在の沖縄県内の景気について

 新型コロナが「5類」へ移行したことで、観光客の行動規制がなくなった。インバウンドを含めて入域観光客数がずっと増え続け、現在、コロナ禍前の7~8割にまで回復している。そういう意味では景気は良くなってきている。

 一方、県全体では人手不足が急速に起きている。特に、観光業界などはコロナ禍で相当落ち込んだので、人員解雇を含む退職者が続出した。パンデミックが収まっても人が十分には戻ってこない。

 観光客が増え、需要はあるが、働き手がいないために供給が間に合っていない。これが、景気にブレーキをかける可能性もある。

―就職活動なども始まったが、新型コロナの影響により、新規学卒者の選ぶ職種の傾向にも変化はあるのか

 新規学卒者は、こういう不安定さが目に見えてしまったので、観光業界などに行きたがらない傾向もある。コロナ禍によって「安定的なところを優先したい」と、働き手の意識も変化した。

 サービス業や観光関連業界などへの就職をためらっているのが実態で、場合によっては、就職浪人者や、公務員や公共機関などの安定を求める人が増えるのではないか。働き手としては今、やりたい仕事あるいは良い会社を選んでいる状況。

―人手不足の状況の中、労働力の供給が非常にタイトになっている。働き手としても賃金上昇の圧力が高まっているのでは

 賃金上昇が抑えられてきたのが、ここ20~30年ほどの日本経済停滞の一因。沖縄だけでなく全国的に見ても、大手企業の利益はバブル前よりも増えている。中小企業でも、従業員に対する還元が遅れている。

 会社は儲かっているはずなのに、自分たちの収入は増えないとなると、働き手としては労働意欲が停滞し、「無理して頑張らなくていいか」と、悪循環に陥ってしまう。

―そうした課題を乗り越えるには

 基本的に「人」を大事にすること。人材確保、育成、教育など、人を成長させる企業になり得るか、そしてその姿勢を働く側から評価される会社になれるかどうか。そのためにはまず、従業員を守ることが先だろう。

 会社が踏ん張りながらでも、人を大事にし、従業員が「頑張って会社を良くしよう」「結果的に自分たちも良くなる」と考えるよう、好循環にしなければならない。従業員のモチベーションが上がって働く意欲が高まれば、能力開発も進み、仕事のやり方も当然変わってくる。

―各企業の人手不足を改善するためには

 経営者の経営姿勢を改めること。経営者が消費者や関連先へ、自分の会社の説明、理想の将来像を語れるか。その将来像を語る時、経営理念、哲学を持っているか。自分の会社を魅力ある会社にできるかどうか。

 そういう経営者であれば、若い従業員にも響いてくる。従業員が生き生きとしていると、今度は新卒の学生らもその人らを目指して頑張れるだろう。

―アフターコロナとなり、コロナ禍で売り上げが減った企業の支援融資施策「ゼロゼロ融資」の返済が本格的にスタートしたが、中小企業の負担はこれからさらに増えるのではないか

 おそらく、これから倒産する企業は増えてくると思う。「ゼロゼロ融資」の返済に関して、融資をすべて人件費など運営資金で使い切ってしまった企業は、アフターコロナになった今、次の手を打つゆとりがなく、経営改善がなかなか進まない。

 そういう企業は、政府が打ち出した「コロナ借換保証制度」を活用することができる。ゼロゼロ融資を借り換えて返済を長期化し、新たに追加運転資金を借りられる。ただし、信用保証協会の保証と経営改善計画書の策定が必要となる。

 一方、アフターコロナを見据えた対策の戦略を練っていた企業については今、積極的に経営を推進していく戦略を遂行しているのではないか。何のために経営するのかが明確で、それを明示できれば、その経営者に期待して金融機関であれ、支援をしていく。

 要するに、これからの銀行や金融機関の見方というのは、コロナ禍で何をしていたか、ということ。しっかりした経営者にはちゃんと前向きな対応をする。一方で、目先のこと、あるいは自分のことしか考えていない経営者に対しては対応が厳しくなる。そこの線引きはこれからますます厳しくなるだろう。

―今後の沖縄景気の見通しについて

 楽観的かもしれないが、明るいと思う。経営困難に陥っている企業を生き残らせるという施策ではなく、やる気がある会社、魅力的な経営者を積極的に支援していく。そうすることによって雰囲気は大きく変わってくる。

 今、黒字なのに後継者難という企業もある。従来の取引先だけで満足し、黒字を維持するやり方は、基盤はあるのかもしれない。しかし、従業員の中から自ら継ぐという人がいない。

 やる気のある人、若い人たちを積極的に経営に参画させ、支援した方が成長は早い。若くてやる気のある経営者がどんどん増えてくると、勢いで活性化されてくる。そうすると、良い人材が集まってくる。

 まず、経営者が自分の会社を魅力的な会社に育て上げる意欲を示すこと。自信を持って自社の良さを発信すれば、おのずと人が集まる。楽しい、面白い、行ってみたいと感じる場所に人が集まる。もちろん楽しいだけじゃなく、成長もしないといけないが、そういう会社を作るべきだ。

(記事・写真 宮古毎日新聞)

Print Friendly, PDF & Email

この著者の最新の記事

関連記事

おすすめ記事

  1.  サッカーJ3のFC琉球が、第2次金鍾成(キン・ジョンソン)監督体制下の初陣を白星で飾った…
  2. 今季から琉球ゴールデンキングスに加入したアレックス・カーク(左から2人目)やヴィック・ローら=16…
  3.  FC琉球の監督が、また代わった。  サッカーJ3で20チーム中18位に沈む琉球は1…
  4. 戦前に首里城正殿前に設置されていたバスケットボールゴールを再現した首里高校の生徒ら=8月27日、那…
  5.  8月12日、浦添市のアイム・ユニバースてだこホール市民交流室は熱気が渦巻いていた。ステー…
宮古毎日新聞

特集記事

  1. 再びFC琉球の指揮を執ることになり、トレーニング中に選手たちに指示を送る金鍾成監督=19日、東風平…
  2. ヴィック・ロー(中央)の入団会見で記念撮影に応じる琉球ゴールデンキングスの(左から)安永淳一GM、…
  3. 沖縄県庁  沖縄県は、地域の緊張を和らげようと、4月から「地域外交室」を設置し、照屋義実副知…
ページ上部へ戻る ページ下部へ移動 ホームへ戻る 前の記事へ 次の記事へ