子どもも保護者も安心して習い事を 音楽で発達支援「heart up 音療育教室」

 
レッスンは2人体制で行う。ピアノのリズミカルな音色が鳴り響きつつ、終始和やかムード

誤解されやすい“グレーゾーン”

 冒頭でも述べたように、脳機能の発達に関係する障害という意味で「発達障害」という言葉が示す範囲はかなり広い。自閉症やアスペルガー症候群を含む広汎性発達障害(近年は「自閉症スペクトラム」という言い方もする)、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)といったカテゴリーで診断される特性がある。

 さらに、このうちのいくつかの特性を持ちつつ、診断基準を全て満たしているわけではなく確定的でない状態、診断は下せないが発達障害的な傾向がある状態という“グレーゾーン”もある。
 熊谷さんは「おそらくグレーゾーンの子どもたちの人数は多いと思われます」と指摘する。そうした中で社会的な理解と対策が進んでいない1つの大きな“障壁”として、「グレーだから大丈夫」という認識が立ちはだかっている。

「身体的な障害や特性があると、ある意味ではアプローチや支援の仕方は分かりやすいのですが、見た目では分からないグレーの子たちは気づくまで時間が必要ですし、周りから『わがまま』『甘えている』と誤解されて“困った子”として対応されてしまう事につながります。だからこそ手厚い支援をすることで、2次的な障害になりにくい体制が必要だと思います。『グレーだから大丈夫』という認識では救えなくなってしまいます」

「お母さんの話を聞くことも大切」

 そこにさらに重くのしかかってくるのが、保護者が情報の共有や相談をしづらいという状況だ。発達障害は子どもの発育を巡るデリケートな話にならざるをえない。そのため、ある程度の信頼関係や理解がないと不用意に子どもを傷つけたり、それに伴って保護者も傷ついてしまうケースもある。子どもだけではなく、保護者のケアも非常に重要だと熊谷さんは強調する。

「メインはもちろん子どもなんですが、お母さんの話を聞くこともとても大切なんです。30分のレッスンで取り組んだことを日報として毎回送り、きちんと子どもの状況についてコミュニケーションをとりながら対話を続けています。その中で、お母さんが日々子どもについて感じていることや、大変に思うことも話してもらうように信頼関係を構築するようにしています」

 こうしたやりとりを重ねて、「子どもがこれまで出来なかったことを出来るようになる瞬間に立ち会って、保護者とその喜びを分かち合えることに感動もやりがいもありますね」と熊谷さんは語る。

手を差し伸べる人を増やさなければ…

 とある日、heart upのレッスンの現場を訪れた。小湾さんのピアノの音とリズムに合わせて、女の子が壁に貼られた音符を指差している。熊谷さんとも笑顔でコミュニケーションを交わし、楽しそうな様子だ。

「私もそうでしたが、子どもに習い事をさせたくても受け入れてもらえるか、続けられるか、という不安があって、断念する人も多いと思います。こうやって個別で分析してもらいながらのレッスンは、親としても知らなかった子どものことを知ることができますし、何より子どもも毎回楽しみにしています」と、女の子の母親が目を細めていた。

 熊谷さんは「保護者へのフィードバックや関わり、広がりについてはまだまだ強化する必要があります」と話す。さらに「学校などの教育現場も含めて、発達障害の子どもたちに気づける人が足りていません手を差し伸べる人が増えなければ、そもそも習い事にもたどり着かないと思います」と現状の課題を指摘する。

「保護者の話を聞く場所や理解者がもっと増えないと、発達障害の子どもたちが暮らしやすいように社会が変わることは難しい。今後はそうした子たちがもっと増えていくとも言われています。だから『分かってあげる』という関わり方、寄り添い方ができる人たちをもっと増やさなければいけないでしょう。子どもたちの気持ちをしっかりと受け止められる人や場所を作る、その一助になる活動を続けていきたいと思っています」

■関連リンク
heart up 音療育教室 WEBサイト

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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