子どもも保護者も安心して習い事を 音楽で発達支援「heart up 音療育教室」

 

 「発達障害」という言葉が日常的に使われるようになった。が、この言葉が持つ意味の幅の広さや、様々な誤解・曲解もあって、実は当事者たちの状況と社会的な理解にはかなりの溝があると言わざるをえないのが現状だ。
 「“治す”というわけではなく、その子の“特性を理解する”というアプローチで、子どもに寄り添えることが増えると思っています」。発達障害を持つ子どもたち向けの「heart up 音療育教室」代表の熊谷裕美さんはそう語る。教室では、音楽と知育をかけ合わせた独自メソッド「音療育」を通して、子どもたち1人1人の個性や特性に合わせた個別レッスンを行っている。
「習い事で楽しい時間を過ごして、子どもの自己肯定感や出来ることを伸ばしながら、同時に保護者にとっても『安心して話せる場所』でありたいと思っています」

1人1人の段階に合わせた支援メニュー

子どもたちのサポートについて説明する熊谷さん

 発達障害のある子どもやその保護者にとっては、既存の習い事教室はハードルが高い。特に子どもたち複数人に対して講師が1人という場合は、発達障害のある子のケアまでは手が回らず、他の子どもたちと違う言動をとってしまうことがあると、ともすれば「問題児」的な見られ方や扱われ方になってしまうこともある。

 そこで熊谷さんが立ち上げたのがheart upだ。ある行動のきっかけと結果に着目して、その法則性や特徴を見出していく「応用行動分析(ABA)」をベースに、音楽と知育をかけ合わせたプログラムで子どもたちの育成をサポートする。レッスンにあたっては、何が出来るか/出来ないか、何が苦手か、といったことや保護者からの要望も聞き取り、子どもたち1人1人の発達段階に合わせて個別にメニューを組む

 1人の子どもに対して、指導員としてABAセラピストの資格を持つ熊谷さんとピアノ講師の2人体制で手厚いレッスンをするのも特徴の1つだ。

子どもも保護者も安心できる状況をきちんと確保した上で、子どもたちがステップアップ出来る土台を作っていくことが大切だと考えているんです。子どもたちはそれぞれの脳の特性で行動している面があるので、決して無理強いや強要をするのではなく、私たちが最大限のフォローをしつつ、子どもを理解するために必要なことを1つ1つクリアにしていくことに重点を置いています」(熊谷さん)

「音を提供するだけで、子どもは成長する」

 レッスンに音楽を取り入れたのは、リズムやメロディーが子どもたちの五感でも分かりやすく感じられ、心身の豊かさを育みながら個々の特性や発育段階に合わせたプログラムに取り入れやすいからだ。

「音楽は発語が苦手な子どもにとって、音を聞いて音程をとる要領で発語を促すこともできますし、リズムに合わせて身体を動かしたり、メロディーに合わせて言葉を歌ったりすることで、使う語彙がスムーズに増えていきます。発語が目に見えてはっきりすることもありますね」と熊谷さんは説明する。

 ピアノ講師としてレッスンに参加している小湾裕加子さんは「ピアノ講師として何ができるのかな」という不安もあったが、「音を提供するということだけで、子どもたちは成長する」ということを日々のレッスンで実感しているという。

 そして、子どもの成長と並んで大事なことは「保護者の変化」だという。「レッスンを始めた頃は『すみません』と謝ることが多かったお母さんがいたんです。レッスンを通して信頼関係を築きつつ、子どもが自宅で出来ることも増えて、お母さん自身の余裕が出てくると、一緒に笑い合って話せるようになりました」と小湾さん。「そうやって心の拠り所の1つになれればな、と思っています」

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