ベビーシッター文化を沖縄に “一人園長”認可外保育施設の挑戦

 

 日本ではまだ主流とは言えない保育の在り方「ベビーシッター」を沖縄県内で広げる活動に取り組む男性がいる。ショウゴベビーシッター施設長の新垣翔吾(しんがき・しょうご)さん(35)だ。ベビーシッター業としては一昨年、初めて那覇市へ認可外保育施設として届出を済ませた「1人園長」の施設で、保育園や幼稚園と同じように、幼保無償化の対象施設でもある。
 時間や場所を問わず利用できるベビーシッター文化を普及させ、親自身がひと時でも自由を得ることで「より楽しく子育てをしてほしい」との想いを抱く。その背景には子育てで精神的に苦しんだ元妻や、うつを発症した自身の経験があった。

「もしベビーシッターの存在を知っていたら…」

「もしも僕が結婚している時にベビーシッターの存在を知っていたら、使いたかった。離婚した元妻も心に余裕ができていたはずだ。同じような境遇にいる人を助けたい」。これがショウゴベビーシッターを立ち上げたそもそもの動機だ。

 3人の子どもにも恵まれたが、夫婦間の関係は過酷とも言えるものだった。子育てなど日々の生活の大変さから妻がストレスを抱え、新垣さんへの態度や言葉など当たりが強くなってしまっていた。それらがエスカレートしていき、日常的に“悪い言葉”を受けていた新垣さんは、うつの診断を受けた。誰も望んでいなかった夫婦関係に陥ってしまった2人は、3年前に離婚した。

「産後うつや育児ノイローゼだったのかな。身近な人にはストレスのはけ口として強く当たってしまうと思う。完全に向こう(元妻)が悪いとは思わない。彼女も彼女できっと苦しかったはず。自分自身の未熟さで彼女の気持ちを汲み取ることができなかった」と、今なら思える。お互いに人の目を気にして、周囲に頼ることができずにいたという。

いろんな場所で依頼できる利便性

 場所や状況に応じてフレキシブルに依頼できることが、ベビーシッター利用のメリットでもある。「ベビー」と言えども対象年齢は制度上15歳までと幅広い。

 新垣さんがシッティング(子守・お世話)をする場所は多岐に渡る。自宅以外にも、母親が美容室に行っている間だけ近くの飲食店で子どもと一緒に過ごしたり、歯医者で治療を受けている間だけ待合室でシッティングしたりすることもある。親御さんが結婚式に参加している時に新垣さんが子どもと一緒に式場を探検することもあれば、引っ越し作業中など子どもがその場にいるとケガをする危険性がある時に、近所の公園まで散歩することも。

 子育て中の親は、一人に自由で行動できる時間がほとんどなくなってしまう場合が多い。「トイレ行くのにまで子どもと一緒ですから。心のゆとりはできないですよね」。だからこそ、ベビーシッターを気軽に利用してもらって、友人と話す時間や将来を見据えたスキルアップ・子育て講座などに時間を充ててほしいと願う。「夫婦でデートもできます」

「誰かに頼りたくても頼れない人」がいる

 ベビーシッターを含め「お金を払って他者に保育をお願いする」ということ自体に、否定的な考え方もある。特に沖縄の場合は祖父母が近くに住んでいるケースも多く、子どもを預けられる環境にある人も多い。親自身も「完璧な親にならなければ」とのプレッシャーを感じることが多く「誰かに頼りたくても頼れない人」がいると新垣さんは指摘する。

 1人でなんでも抱え込むと最悪の場合、虐待に発展する可能性だってある。「相談することは甘えでもなんでもありません。相談できずにメンタルが潰れてしまう人もいます。辛い時には辛いと言ってほしい。ママの気持ちに余裕があることが、子どもの幸せや良好な夫婦関係にもつながります」と気持ちを込める。

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