キムタツコラム⑰子どものために、親になにができるのか

 

 国内有数の進学校、灘中学校・高等学校(兵庫県)の元英語教員で「夢をかなえる英単語ユメタン」シリーズや「東大英語基礎力マスター」シリーズなど数多くの有名参考書を手掛けている作家の木村達哉(キムタツ)さん。 「NPOおきなわ学びのネットワーク」 を立ち上げて沖縄の生徒の学びを支援しているなど、沖縄に縁深く活動しているキムタツさんに、教育に限らずさまざまな角度からコラムを書いてもらいます!

知識と経験値の両方が大事

 皆さん、こんにちは。木村達哉です。どうぞよろしくお願いします。今年ももうすぐ終わりですね。僕は今年、90作目となる絵本『あなたのちからになりたくて』を出版することができました。また、北海道から沖縄まで、日本中でいろんな方々にお会いし、語り合うことになりました。コロナが落ち着いてきたのはいいことです。

 11月は興南高校で「親学塾」というイベントがあり、講演をすることになりました。「伸びる子と伸びない子はここが違う」という演題の講演です。保護者に「伸びる子の特徴」を話したところで成績が上がるわけではないのですが、知っておいてもいいかなと思って、灘校でのエピソードを交えながら話しました。また、子どものために親には何ができるのかというお話も加えました。極めてたくさんの方々がご参加くださり、終わってからも質問に来てくださったり、僕のTwitterやFacebookから質問をくださったりしました。

 伸びる子は、前号でも書いたことですが、自習で得た知識と経験値の両方を兼ね備えている子です。共通テストで800点以上取るような生徒は中学時代から基礎を積み重ねているわけですが、だからといって机の前で勉強しているだけで成績を伸ばすのは難しいと思われます。部活動をする、休みの日は出かけていく、野球部の子がJリーグの試合に行く、サッカー部の子が吹奏楽のコンサートに行く、美術部の子がプロ野球を観戦に行く、やったことのない経験を重ねる、そして勉強に関しては習ったことをその日のうちに自習をして習得する、といったようなことをしているうちに成績が上がってくるのです。

東京以上に塾に通う子が多い沖縄

 ただ、それを支える要素が3つ必要です。1つ目は時間です。沖縄の子どもの貧困率が話題になりますが、しかし東京以上に通塾している生徒が多いですよね。沖縄の人は教育にお金をかけているんだなぁと驚いています。学校と塾の両方に通うのを専門用語ではダブルスクールと呼びます。たとえば、大学生が税理士になるために夜は専門学校に通うのもダブルスクールですね。僕は絵本を出すために美術系の専門学校に通いましたが、その学校には大学生たちもかなりいました。大学と専門学校の両方に通っているのです。沖縄の子どもたちは学校と塾の両方に通っているのですね。

 昼は学校に通い、夕方から塾に通うとなると、自由な時間が奪われます。自分の夢をかなえるために自由を犠牲にしているとしたら、それは夢の実現のためなので苦にはなりません。しかし、塾に通っている生徒の中には、機械的に、ただなんとなく通っているというケースも多いのではないでしょうか。成績を上げるためには自習と経験値が必要ですが、時間がなければ自習をすることも経験を重ねることもできません。塾で疲れて自習ができないと言った沖縄の生徒もいました。塾をやめないと成績は伸びないよと言うと、親が許してくれないと言います。それは完全に本末転倒です。

やはりお金は大事

 2つ目の要素はお金です。自習をしようと思うとそれなりの教材が必要です。無料の教材(YouTubeチャンネルなど)もあるのはありますが、絶対量が不足します。また、学校や塾で配付される教材が自分には合っていないことも多々あります。先生方は良かれと思って配付しているのでしょうが、全員に合うレベルの教材など存在しないことは論理的に考えればわかりますね。そうすると、比較的大きい書店さんに行って、自分に合う問題集や参考書を選ばねばなりません。子どもには自由になるお金が多くありませんから、そこは親の出番ということになります。

 加えて、読む力のある子どもは成績が驚異的に伸びますが、本を毎月10冊読んでいる子と1冊しか読まない子とでは、読書力に大きな差が出ます。そうすると本代もかかります。教育費は塾代で減らしてしまうと書籍などに回せなくなってしまうので、そこは親がしっかりと考えなければなりません。学校の仕事ではありません(僕は灘校時代、毎月4冊ずつ本を生徒たちに紹介していましたが、それらを買って全員に手渡すなんてことはできませんからね)。

 また、経験を重ねようと思ってもお金が要ります。ルーブル美術館や大英博物館のように、海外の美術館や博物館は入場料が無料ですが、日本では何をするにもお金が要ります。また、交通費もかなりかかります。子どもだけではどうしようもありません。

家でリラックスできると

 時間とお金が必要だという理由がご理解いただけましたでしょうか。そして最後に3つ目の要素です。それはリラクゼーションです。自習が大切だと言いましたが、学校や塾から帰宅したらいよいよ勉強しなければなりません。学校や塾だけで成績を伸ばすことはできないので、自宅で自習をするのです。そうするとバリバリに数字は上がります。が、もし子どもがイライラしていたら自習しようと思うでしょうか。お父さんやお母さんの「勉強しなさい」のひと言でやる気を失う子どもたちはかなりたくさんいるはずです。なかには「頑張ってきたか」のひと言でも「なんでそんなことを親に言わねばならないんだ」と思い、モチベーションを失くす子どももかなりいます。

 大人でもそうですよね。最近はリスキリングが話題ですが、時間に余裕があって、それなりにお金の心配もなく、精神的にリラックスしている状況でないと、勉強し直そうなんて思わないんじゃないでしょうか。子どもも大人も同じなんですよ。

 興南の親学塾では「親は心地よい助手席の存在であってほしい」と言いました。助手席に座っている人が「もっと強くブレーキを踏んで!」や「今のところ右に曲がったほうがよかったのに!」とか言っていると、運転手はイライラしますよね。余計なことを言うなら降りろ!という気持ちになりませんか。逆に、運転中に困っている様子を見て「次の角を左に曲がるといいみたいだよ」と声をかけてくれたり、「運転がスムーズで眠くなるわ」と微笑んでくれたりすると、愛が深まりますでしょ。

 「心地よい助手席の存在」って難しいんですよ。ついつい余計なひと言を投げたくなりますから。でも、じっと子どもを見て、言いたいことがあっても放置し、親は親の人生を楽しむことです。うちの親は素敵だなと思わせることも親の仕事ですからね。

 リラックスするあまり、ゲームばかりやっていたり音楽ばかり聴いていたりして勉強をしようとしない子は、ファイティングスピリットに欠けますので伸びません。そういう子は、残念ですが親がなんと言おうとも確実に堕ちます。でも、子どもは親の所有物ではないので、見ているしかないんですよ。ゲーム機を与えたのは親なのですから、イライラして「ゲームばかりして!」と言うのもおかしなものです。堕ちるのを見ているのも大人の仕事です。

土台にあるのはファイティングスピリット

 子どもが、というより人が伸びるために必要な要素を3つ書きました。土台にあるのは伸びたいという欲です。言い換えればファイティングスピリットかもしれません。僕はもっともっと伸びたいので、勉強し続けたいと思っています。皆さんに、もしかしたらジュンク堂書店や琉球新報のステージで、お会いすることもあろうかと思います。その折にはどうぞよろしくお願いします。僕のコラムはこれが最終回です。読んでくださってありがとうございました!

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木村 達哉

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作家、関西学院大学フェロー、新潟産業大学客員教授、NPOおきなわ学びのネットワーク理事。オリジン・コーポレーション所属。2021年3月まで灘中学校・高等学校教諭。奈良県出身。沖縄で愛犬さくらと一緒に年の3分の1ほどを過ごし、県内の学校や教育機関で英語授業や講演を行う。
趣味はゴルフ。そのわりに90を切ることができずに苦しんでいる。

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