仙台育英の全日制沖縄校が4月開校 ICT教育特化で起業も視野

 

 学校法人仙台育英学園(宮城県)は来年4月、沖縄市胡屋に「仙台育英学園沖縄高等学校」を開校する。全日制普通科で、来年度の募集定員は40人。ICT教育に特化したカリキュラムの他「学び方を学ぶ」ことに重点を置くことで、卒業後も自立したキャリア構築ができる生徒を育む。野球やサッカーの強豪校として全国的にも知名度の高い仙台育英が、沖縄で開校するのにはどのような背景があったのか。

生涯「学び続ける力」で自立を目指す

 仙台育英学園は2014年、宮城県、青森県に続く3校目となる通信制高校「仙台育英学園高等学校 広域通信制課程 ILC沖縄」を沖縄市上地のコザミュージックタウン内に開校した。ことし3月に同市胡屋で新校舎が完成しており、通信制のスクーリング授業もすでに新校舎に移行させている。

 同校が教育目標の一つとして謳うのは「現在と将来の自立を目指す」ことだ。“学び方を学ぶ”ことで、学校で何かを「教えてもらう」というような受け身の姿勢ではなく、在学中も卒業後も自分自身で「学び続ける」力をつけ、知識や能力をアップデートできる教育を掲げる。

 進路指導目標としても「経済的に自立するため、ICT分野で就職・起業を目指す」と掲げており、成長産業でなおかつ人手不足、さらにはスキルがあればしっかりとした収入を得ることができるICT分野での人材育成を明確に軸として据えている。

 カリキュラムは「現代の国語」「ベーシック数学」「科学と人間生活」といった、いわゆる“国数理社英5科目”を展開させたものだけでなく「プログラミング英語」「ICT活用講座」「プログラミング演習」といったICTを専門に扱う授業が組まれている。中でもeスポーツの仕組みや戦術を学ぶ「eスポーツ講座」も1年次を中心に用意されており、楽しみながらICTの魅力に触れることができる。

 部活動はeスポーツ部、ライフル射撃部、バドミントン部、ダンス&チアリーディング部、サッカー部、なぎなた部の6つ。

「ICTは絶対に必須」

 11月13日には第3回目となるオープンキャンパスが開催され、80人以上の中学生と親が参加した。同学園沖縄高等学校の加藤聖一校長は、ICTに注力する理由について「みなさんが普段使っているスマートフォンもICTによってできたものですし、これからメタバース(3次元仮想空間)が現実社会に出てこようとしている中でICTは絶対に必須です。一般企業に進むとしてもICTスキルは必要不可欠です」とその重要性を語り、IT業界の年収のボリュームゾーンが500万~600万円であることを紹介しながら「IT産業は高卒でもスキルがあればちゃんと通用しますし、学び続けられればさらに上の段階までいくことができます」と具体的なキャリア形成にも言及した。

 オープンキャンパスではその他、学費は県立高校とほぼ同額であることや、選抜方法は「試験一辺倒の評価を目指していない」とし「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学ぶ姿勢」の3観点で評価することなどが説明された。

 県出身バンドHYの仲宗根泉さんが作詞した校歌も披露された。

校長予定者・加藤氏に聞く 沖縄で開校した理由

 開校への思いやコンセプト、今後の展望について、同校の加藤校長に聞いた。

Q.沖縄で高校を開校したきっかけや理由を教えて下さい。

「2011年の東日本大震災で本学園にとってかけがえのない方々が亡くなってしまい、宮城県の校舎が甚大な被害を受けて全面改築してしまうなど、仙台育英学園は大きな被害を受けました。被災から数年間は復興のことしか考えることができず『日々どうやって生きていこうか』『学びの場をどのように作り直すのか』ということしか考えられないほど余力がありませんでした。2013年に復興した(宮城県の)宮城野校舎に安堵しつつ、ふと現実を振り返ることができるようになった時に、心のゆとりを求めて学園関係者で沖縄を訪れました。宮城県では津波の影響で海には全く近づかなくなってしまいましたが、宮城に住む人間としては目の前にある海を避けて通ることはできないという思いもあって、もう一度違った形で海と向き合おうとしました。沖縄の海を眺めながら島酒を飲んだりしている中で、地元の方々が『大変だったね』『この島酒おいしいからさー』と、自然な形でゆんたくが始まって。この雰囲気にすごく救われました。沖縄のことをしっかり知っていこうとしたのがきっかけです」

「沖縄のことを調べようと、教育関係や行政のみなさんにお話を伺ったところ、沖縄の高校中退率が全国平均をはるかに上回っていることが分かりました。また、産業構造としても仕事の選択肢が限られていて『高校に行かなくてもどっちにしろ働けるだろう』と考えて中退する人も多いことも知りました。そういった課題が特に中頭地区に顕著に現れていることから、仙台育英学園として力になれたらと相談させていただきました。私たちはすでに広域通信制課程の学校を青森県八戸市にも持っていたので、そのノウハウをそのまま沖縄に当てはめて2014年に広域通信制高校ILC沖縄を開校しました。他の全日制高校を辞めた子たちが通信制で学び続けて高校を卒業できたケースが増えたのは、地域貢献の一つではないかと思っています」

Q.今回、全日制の高校を開校させる経緯を教えてください。

「通信制の卒業生や在校生から『後輩たちに全日制で学ぶ機会を作れませんか』との声を頂いたことから誕生することになりました。この言葉を受け、私たちとしても沖縄で全日制の高校ができないか研究を進めていました。新校舎を作るにあたって、地域のみなさんの大きなご理解があったからこそ、なんとか実現できました」

Q.ICT教育に力を入れる思いを改めて聞かせてください。

「沖縄の産業構造に偏りがあるという課題を解決できる分野だからです。ちょうど(近隣の)うるま市や沖縄市もICTに力を入れていて、まさに今から産業を作っていこうとしている場所です。この場所から子どもたちを育てて、県外の仕事を受けてもらうことができれば、地元にとどまりながらもしっかりとした収入を得られ、経済的に自立することができます」

「在学中や卒業後の起業はあって然るべき」

Q.教育目標に「起業」というワードもありました。

「今は一昔前と比べて制度としても起業がしやすくなっています。子どもたちが社会に対して成果物をアウトプットしていきたいという目線を持っているのでしたら、我々は一つのキャリアとして、在学中や卒業後の起業はあって然るべきなのではないかと考えています。特にITの分野は、スキルさえあって一つのアプリケーションを完成させてしまえば、なおさら次のステップとして起業はあり得ると思います」

Q.「自ら学び続ける」ということを大切にしていることについては。

「本校の成果目標として『〇〇大学に行きました』『国公立大学に何人合格しました』というようなことを打ち出すつもりは全くありません。結果論としてそのような実績につながることがあり、実績を公表することはありますが、それを目標にしているわけでは全くありません。学歴については、ブランドのある大学に進むためではなく、自ら生涯学び続けて専門学校や大学、大学院に進んでいった結果、というように捉えています」

Q.中長期的な展望を教えてください。

「まずはしっかり一期生を出したいです。資格取得などをサポートしていって、資質・能力を3年間でちゃんと伸ばしていけるように頑張っていきたいです」

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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