映画『なんでかね~鶴見』公開 園田青年会長役の俳優が抱く思い

 
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 沖縄の伝統エイサーをテーマにした映画『なんでかね~鶴見 ~ガーエーにはまだ早い~』(渡辺熱監督)が、第15回沖縄国際映画祭期間中の4月15日を皮切りに初めて一般向けに公開される。2020年公開の『だからよ~鶴見』の続編的な作品で、多くの沖縄県出身者やその子孫が住む横浜市鶴見区が舞台。沖縄市の園田青年会長役で出演した県出身俳優の中山琉貴さんは、歴史ある園田青年会の会長役として劇中でエイサーを踊ることに対して「俳優としての自分を見てほしいというよりも、沖縄のエイサーを見てほしいという気持ちが強いです」と郷土愛を見せる。中山さんとプロデューサーの野村拓哉さんに、本作の見どころを聞いた。

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映画「なんでかね〜鶴見」公式ページ

「沖縄以上に沖縄が感じられる街」

 関東にありながら「沖縄以上に沖縄が感じられる街」だという鶴見。多種多様なルーツを持つ人々が「なぜこの場所で生きるのか?」をテーマに、人情喜劇を通して鶴見を再発見する。

 主なキャストは比嘉秀海、かーなー(いーどぅし)、川田広樹(ガレッジセール)、REINA(MAX)、大工哲弘、アルベルト城間らで、幅広いジャンルで活躍する沖縄県出身者を中心に据えて物語を展開していく。

中山さん「ある意味で『もう一つの沖縄』」

 東京を拠点に活動する中山さんは、本作への出演がきっかけで初めて鶴見区に足を運んだという。そこには想像以上に“リアル”な沖縄があった。「いわゆる“沖縄タウン”のような場所って、結構意識してコテコテな沖縄っぽさを出しているところも多いんですけど、鶴見を歩いていると本当に、地元の西原町の公民館周辺を歩いているような気持ちになるというか。沖縄の人があまり知らない、ある意味で『もう一つの沖縄』があったことに驚きました」

 中山さんが鶴見に沖縄を感じたのは、街の雰囲気だけではない。「生まれ育ちが鶴見の方の方がむしろ、エイサーや道じゅねー、シーミーといった沖縄の文化継承にしっかり取り組んでいると感じました。沖縄で生まれ育っていると逆に、沖縄文化が当たり前になりすぎてしまっている部分もあると思うんですよね」と話すように、関東に住むウチナーンチュ(沖縄人)だからこそ、アイデンティティを見つめる機会が多いとも言える。

園田青年会長を演じるということ

 中山さんの生まれはエイサーの本場・沖縄市。8歳で西原町に引っ越し、大学を卒業後東京に移り住んだ。伝統エイサーをテーマにした映画への出演、さらには歴史ある園田エイサーの青年会長役という点について「嬉しいと同時にプレッシャーを感じました」と気を引き締める。60年以上の歴史を誇る園田青年会のエイサー。その伝統とプライドを継承しメンバーをまとめる会長の人物像に思いを巡らせ、どのように自分を重ねようか悩んでいた。エイサーのスタイルは地域や時代によって変化するものもあるが、その精神の根っこにあるのは「仲間や家族、地域や先祖への愛情の深さ」だと自分なりの回答を導き出した。

 劇中には本物の青年会メンバーも本人役で登場する。園田青年会が映画に出演するのは初めてのことだという。代々大切にされてきた旗や太鼓も鶴見に持ち込み、さらに特別感を引き立てた。

 中山さんは「学園祭のエイサーではチョンダラー(白塗りをした盛り上げ役)しかやってこなかったので」と、エイサーは決して得意ではなかったというが「死ぬほど練習しました」と役にかけた熱い思いをにじませた。

園田青年会と和光青年会のつながりから

 中山さんが関東にいながら園田青年会のエイサーを練習できたのは、ある歴史が今につながっていたからだ。

 園田青年会との長い交流を持ち、エイサー指導を受けている東京都世田谷区の私立和光小学校の卒業生からなる「和光青年会」の協力もあり、中山さんは数週間という短い期間をフルに使って練習に打ち込んだ。短い期間で本物の園田青年会と同じように踊るのは難しいことは周囲も承知の上だったが、それが中山さんの心に火をつけた面もある。「映画で沖縄市のエイサーが出てくる機会はなかなか無いと思うので、ぜひそこに注目してほしいです」と、沖縄出身の俳優としてエイサー文化の一端を背負う。

野村Pが鶴見で触れた沖縄文化の魅力

 プロデューサーの野村さんは、前作に引き続き今作にも携わった。普段は鶴見区で沖縄の物産販売をする会社に勤めている。横浜市外の出身ではあるが、このことがきっかけで「横浜鶴見沖縄県人会青年部」に加入。沖縄の魅力に触れ、発信を続けている。

 「時期ごとに伝統行事があったり、青年会が地域に根ざして活動していたりしていることが本当に素敵ですよね。離島や地域ごとに言葉や音楽、芸能の多様性もそれぞれありますし、『やっぱり沖縄良いなぁ』ってすごく感じます」

 今作はエイサーがメインテーマではあるが、出演者にはミュージシャンも多く出演し、歌が出てくるシーンもたくさんあるという。沖縄の文化をさまざまな切り口で感じられる作品だ。

 沖縄での初公開を前にして野村さんは「ワクワクとドキドキが5:5ぐらいです。いや、やっぱりドキドキが6:4で勝っています」と少しだけナーバスではあるが、その笑顔には充実感がみなぎっていた。

『なんでかね~鶴見 ~ガーエーにはまだ早い~』
上映・舞台挨拶スケジュール
4月15日(土)10:30- 桜坂劇場ホールA
4月17日(月)18:30- 沖縄市民小劇場あしびなー

中山琉貴(なかやま・りゅうき)

2016年、舞台『SAKURA』で初出演・初主演。2020年からオリオンビールのテレビCMに出演中。 自身の音楽プロジェクト「ちゅうざんBAND」でも活動。川崎市で行われる「第10回はいさいFESTA」で5月7日に出演予定。

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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