科学の知見で高付加価値な観光実現へ 沖縄県環境科学センター

 
ダイバー向けのプログラム「おきなわコーラルガーディアン」モニターツアーの様子(沖縄県環境科学センター提供)

 一般財団法人沖縄県環境科学センター(浦添市)は、科学のスペシャリストとしての立場から、「沖縄の自然環境保全と観光の高付加価値を両立する新たな観光」の実現を掲げ、さまざまなプロジェクトを立ち上げている。同センターが打ち出すサスティナブルツーリズム(持続可能な観光)『GO ACTION』の第一弾として、昨年10月にはサンゴ礁保全を学び実践するダイバー向けのプログラム「おきなわコーラルガーディアン」のモニターツアーを開催した。環境関係の専門事業者が主体となって観光コンテンツを開発するのは珍しい。

 同センター業務部長兼SDGs事業実行班長の岩村俊平さんは「科学的知見を生かしながら、地域の観光関連事業者と連携して持続可能な活動を少しでも後押しできるような仕組みを作って、地道に県内で水平展開していきたいです」と述べる。

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サステナブルツーリズム | 沖縄県環境科学センター

沖縄県環境科学センターとは

沖縄県環境科学センター(同センター提供)

 沖縄県環境科学センターは、県内の食品や飲料水、生活環境の保全、管理に関する検査、普及啓発、自然環境調査、環境アセスメントなどのコンサルタント事業の他、行政や学術機関と連携した調査研究事業などを網羅的に行っている。

社会・経済・環境の調和で持続的なツーリズム

 沖縄県は、2031年までの沖縄観光の指針を示した「第6次沖縄県観光振興基本計画」で、沖縄観光のビジョンとして「世界から選ばれる持続可能な観光地」をテーマに掲げており、官民一体となって社会・経済・環境の三側面で調和が取れたサスティナブルツーリズムの実現を目指している。

 安全・安心で(社会面)、地場の事業者に適正な経済的恩恵があり(経済面)、自然などの地域資源への負荷が小さいか、むしろ改善につながる(環境面)というように、これらの3つが調和して地域課題の解決を促す仕組みが、サスティナブルツーリズムの目指す理想的な形だ。ウェブやデザインなどで協業するクリエイティブナイン代表の山城簾太さんは「地域にしっかりとコミットしていくことが、これからのツーリズムの在り方の一つです」と真っすぐ語る。

(左から)クリエイティブナイン代表の山城簾太さん、沖縄県環境科学センター業務部長兼SDGs事業実行班長の岩村俊平さん

 沖縄観光の持続可能性を高め、より魅力的にするためには、サスティナブルツーリズムの普及と浸透が不可欠とも言える。ただ、そのためには環境関連の専門的知見がどうしても求められる局面がある。岩村さんは「あらゆる観光コンテンツが出尽くしているように思われがちな中、環境、SDGsの専門家として異業種の方々と地道に対話を積み重ねていくことで、ありそうで無かったような仕事を創出することを常に目指しています。レッドオーシャン(飽和状態で参入が難しい市場)の中に小さな“ブルーポンド”を作り続けていくイメージです」と話す。

サンゴを守るダイバー向けプログラムも

 SDGsの達成や、沖縄の持続可能な発展に寄与することを目的として、同センターは2020年に「SDGs事業実行班」を発足させている。名称を「SDGs事業“実行”班」としたのは、規模の大小によらず地域課題の解決に向けたプロジェクトを立案、実行するという強い意志を込めたからだ。

 その一例として、今年度には、恩納村のダイビングショップとともに前述のダイバー向けプログラム「おきなわコーラルガーディアン」を立ち上げた。海洋プラスチックごみの問題やごみがサンゴに与える影響、サンゴの生態などを学び、実際に海中ごみの回収作業までできるもので、第一線の環境の専門家から直接学びの機会を得られることは、参加者にとって価値ある時間となる。同プログラムは、来年度以降ダイビングショップが主体となって継続するとともに、地域内でさらに展開される見込みだ。

沖縄の海とサンゴ(イメージ写真)

 その他、食品衛生に関する専門的技術を活かして、地産地消促進のために都市部で野菜を安定的に生産しようとするプロジェクトや、SDGsの知見を活かして「沖縄MICE開催におけるサステナビリティガイドライン」の作成に関わるなど、幅広いプロジェクトに取り組んできている。

 沖縄県環境科学センターが持つ感染症対策の技術は、コロナ禍にあっても室内イベント開催の手助けとなった。食品衛生の技術は、飲食店内ではなく野外の歴史スポットでの安全・安心な食事を可能にし、沖縄でしか感じることができない高付加価値な体験を提供することに成功した。岩村さんは同センターの取り組みについて「観光とは無縁に見えて、実は安全・安心な生活を守る技術によって沖縄の観光の土台を支える役割を果たしています」と話す。

あらゆる分野で「連携」を

 観光が盛り上がると、宿泊業や飲食業はもちろんのこと、バスやタクシーといった公共交通、地元の味を提供する農業や漁業、お土産品店などの商業に見られるように、さまざまな分野に経済効果が波及する。「環境」や「安全・安心」の技術によって観光関連事業に寄与していくことは、持続可能な沖縄社会の発展に貢献することにつながるという。

 同センターのロビーや打ち合わせスペースの壁には、大きく「連携」と書かれた躍動感あふれる書があしらわれたポスターが貼られていた。書いたのは岩村さん自身だ。科学のスペシャリストとして、同センターがあらゆる分野の業種と連携し、持続可能な沖縄の実現に貢献していく決意が表れていた。

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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