差別を考えるための“起爆剤”に 11月3日から『喜劇 人類館』
- 2022/10/27
- エンタメ・スポーツ
1903年に大阪で開催された「第5回勧業博覧会」の会場近くにあった見世物小屋で催された「学術人類館」。アイヌや台湾先住民、朝鮮、清国などの人々と一緒に、琉球人が「人間の展示」として見世物にされて、問題となった。この出来事をモチーフに、皇民化教育、沖縄戦、米軍統治とベトナム戦争、本土復帰など沖縄の戦前から戦後にかけてのあゆみを風刺しながら描き出す演劇作品『喜劇 人類館』(作・知念正真)が11月3~6日、那覇市文化芸術劇場なはーとで上演される。
現在、公演に向けて稽古真っ最中だ。演出を手掛ける知念あかねさんは「若い世代にも何かを感じてもらうのが、今この時に上演する意義だと思います。差別をどう捉えるのかも含めて、考えるための起爆剤にしたいですね」と意気込みを話す。
「人間の展示」を描くブラック・コメディ
10月上旬、メディア向けに公開稽古が行われた。「かぎやで風」にのせて役者陣がステージに上がり、「差別は決して許してはならない」との口上を述べる。鞭を手に持った“調教師”のような男が、見世物として展示されている“陳列された男女”に対し、様々な御託を並べながら動物のように扱う冒頭の場面。差別という重く厚いテーマでありながらも笑いの要素があり、タイトルに「喜劇」を冠する通り基本的にはコメディだ。ただし、「ブラック・コメディ」と言った方がより正確かもしれない。
作者の知念正真さんは、演劇集団「創造」に所属して脚本や演出を務めていた。1976年に初演された『人類館』は、78年に“劇作家の芥川賞”と言われる岸田國士戯曲賞を受賞している。
今回演出を手掛けるのは佐藤尚子さんと知念あかねさんの2人だ。女性による演出は今回が初めてで、「何か新しい空気を感じてもらえたらいいなと思っています」と佐藤さんは語る。
あかねさんは作品を生み出した正真さんの実の娘で、昨年は無観客公演となった同作のプロデュースを行ったが、今回は演出を務める。「父から預かった大事な作品。是非今の若い世代に見てほしいんです」とアピール。
「差別の見方やそのあり方が変わっていく様を、どう受け取ってもらうか、ということも考えています。沖縄の人や沖縄が差別される側だからと言って、決して『可愛そうなもの』になりたくはないという気持ちもあります」
佐藤さんは作品を「沖縄だけではなくて、日本の財産と言っていいと思います」と評価しつつ、「差別の複雑さも織り込まれていて、単純ではない戯曲なので読み解きが非常に難しいですね」と挑む壁の大きさを実感しているという。
また「賞を獲った戯曲も、上演されないと意味がありません」と強調し、「これまでこの作品をつなげてくれた人たちとの良いチームの中で、心強く稽古を進めています。今までと違った雰囲気の作品が出来上がるといいなと考えています」と述べた。
「語り継ぐこと」を体現する布陣
“陳列された女”を演じる今科子さんは、何と46年前に初演された同作で同じく“陳列された女”を演じた今秀子さんの娘だという。演出面でも演技面でも親子二代が携わり、歴史や物語を語り継ぐこと、継承することを強く感じさせる布陣だ。
今さんは「突然出演の連絡が来て、ずっと断っていたんです。でも母が人類館に出演した経験について『楽しかった。未だにセリフを忘れていない』という一言を口にしていたことで、やろうと決めました」と出演のきっかけを振り返る。
「なぜ湧いてきたのか分からない“怒り”の感情を感じながら演じています」と話すのは、“陳列された男”を演じる仲嶺雄作さん。沖縄に深くまつわる物語ということを踏まえ、「沖縄という地に生まれた誰にとっても関係ない話ではないと思います。歴史を知る上でもとても良い作品なので、どなたにも楽しんでほしいですね」と作品の間口の広さを強調した。
“調教師”役の西平寿久さんは、稽古の日々が「差別がどう生まれるのかを考えさせられている時間」だという。「差別は人間がやることなんだな、と当たり前なんですけど実感しています。だから、人間である以上終わらないことかもしれないのですが、その複雑さを表現できればと思っています」と抱負を述べた。
上演時間は11月3~5日が19時、6日は14時開演で、チケット料金は一般2,500円、24歳以下1,000円となっている。なはーとチケットサービス窓口やWEBサイトで取り扱い中だ。各回公演後、多彩なゲストを招いたトークも予定されている。
■関連リンク
☆『喜劇 人類館』公演情報(なはーとWEBサイト)
☆那覇文化芸術劇場なはーと
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