「積極的にわけの分からないことをやる」なはーとで演劇『イミグレ怪談』

 
『イミグレ怪談』の作・演出を手掛ける神里雄大さん(右)と出演者の上門みきさん

 劇作家・演出家の神里雄大さんの劇団「岡崎藝術座」の新作演劇公演『イミグレ怪談』が、10月28~30日の3日間、那覇文化芸術劇場なはーとの小劇場で上演される。作品はなはーととの共同製作で、内容は“神里流ホラー・コメディ”と銘打たれている。現在、公演に向けて連日稽古中だ。
 同劇場で開かれた公演についての会見で、今作の作・演出を手掛ける神里さんは作品のテーマや解釈を巡って「作家が正解を目指して作品を作り、観客がその正解に向けて作品を観るという行為にあまり興味を持っていないんです」と述べた上で、「積極的にわけの分からないことをやろうと思っています」と言い放ち、公演当日の劇場で味わえる“未知との遭遇”に期待をもたせた。

幽霊×移民で見えてくるものとは

連日の稽古に熱が入る

 出演者は沖縄出身の上門みきさん、大村わたるさん、松井周さん、そしてビアトリス・サノさんの4人。タイトルの「イミグレ」は英語で移民を意味する「イミグレーション」からきている。移民をテーマに内包して、同時期に開催される「世界ウチナーンチュ大会」に合わせている部分もあり、上演では英語とスペイン語の字幕も付く予定だ。

 越境や移民をすることなどについてリサーチを重ねているという神里さん。昨年に半年ほど沖縄に滞在した際に、『琉球怪談』(原作:小原猛)という作品を上演したことで「怪談という語り口で想像を膨らませていくことが、自分の考える演劇のあり方そのものなのじゃないか」という体感を得たことを振り返った。その上で、「怪談の背景にはその場所の文化や社会が反映されてます。幽霊や妖怪が土地を変えたらどうなるのか、という単純な思いつきから今作がスタートしたんです」と製作の経緯について話した。

 作品内容については、明確なストーリーや登場人物の役どころについては言及を避けた。日本だけでなく「タイやラオスに滞在した時に知った怖い話を組み込んで、台本が『出来上がった』と言えるのか分からないままにリハーサルが始まりました」と神里さん。

台本のテキストを巡って対話を重ねる

 これまでの自身の作品に対して、観客から「どういう風に観たらいいのか」「正しい観かたが分からない」といったリアクションがあったことに触れ、「作家が“正解”を持ってそれを目指して作ることや、観客もそれに向けて観るという行為にあまり興味を持っていないし、違うと思っているんです」と話す。今作を作るにあたって、その感覚は「強まっている」という。

「我々はわけの分からないことだらけの場所に生まれて、身の回りや社会でもわけの分からないことがたくさん起きていると思います。それに対して“正解”が何かということを基準にいちいち気にして生活しているというよりは、その場その場でいかに切り抜けるかということをしているはずです。まして、今回は『怪談』ということで、“謎の存在”の話。その意味でも、積極的にわけの分からないことをやろうと思っています

舞台芸術の面白さを実感できる作品

セリフに込められた意味や歴史的背景について神里さんと意見を交わす上門さん

 出演者の上門さんは「台本を読んだ時点ではあまり分からなかったんですけど、ダンスをしたり、世界の歌を聞いたり、色んなことをしながらリハーサルを進めて、少しだけ(作品の)“カケラ”が分かったような気がしています」と語る。
「アプローチの仕方も含めてすごく面白い怪談話だと思っています。これからどんなものに仕上がっていくか全然読めませんが、ワクワクしています。是非たくさんの人に観に来てほしいです」

 共同製作するなはーとの林立騎さんは「沖縄の歴史や沖縄からの移民の歴史、そして那覇の現在の街並みが神里さん独特の形で作品として表現されることを大変うれしく思っていますし、舞台芸術の面白さを実感していただける作品になっています」と述べ、来場を呼び掛けた。

 公演は10月28、29両日は19時、30日は13時。チケットは全席自由で一般が3,000円、U24(24歳以下)は2,000円、18歳以下は1,000円。28、29日は終演後にトークイベントも予定されている。チケットはなはーとのチケットサービスで取り扱い中。問い合わせ先はなはーと(098-861-7810)まで。

 また、同公演は年末年始にかけて、東京、京都でも上演予定となっている。

■関連リンク
『イミグレ怪談』特設サイト
『イミグレ怪談』公演情報(なはーとWEBサイト)

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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