消滅危機言語・与那国語テーマにイタリアの2人が映画制作

 

 失われゆく与那国島の言語「ドゥナンムヌイ」。話者は300人程度とされており、沖縄にもともとあった他の言語同様、ある一定以下の年齢層は聞くことも話すこともできないとされる。「ドゥナンムヌイ」の話者が少なくなりつつある与那国島に着目し、映画『ヨナグニ~旅立ちの島~』を制作したのは、共にイタリア出身でフランスに拠点を置く映像作家アヌシュ・ハムゼヒアン氏と、写真家のビットーリオ・モルタロッティ氏だ。

 進学などで島を離れゆく中学生らを通して、希少な文化が失われてしまいつつある様子を象徴的に描いた。沖縄県内では4月30日から5月6日まで、那覇市の桜坂劇場で公開されている。翌7日からは全国で順次公開される。

子どもたちを通して与那国島の伝統を視る

 作中の主人公は、与那国町立久部良中の生徒たちだ。島の大人たちに温かく見守られている姿や普段の学校生活の様子を映し出すことで、島が彼ら彼女らにとっての心の拠り所になることを描く一方で、小さな島から那覇や東京へ出ていき、これまでとは違った体験をしたい、できれば島に戻らずに都会で生活したい、という生徒たちの素直な思いも描いている。

 与那国島には高校がないため、多くの場合で中学を卒業したら島を出ることになる。「子どもたちが外に出ていく」ことを通して、与那国島の独自文化にどう目を向けるべきかも問いかけている。

一貫したテーマは「何を残すか」

 ハムゼヒアン氏とモルタロッティ氏は現在、フランス・パリに拠点を構えており、共通の友人を介して意気投合。2人で表現を続けており、日本国内で撮った作品は今回が3作目となる。両氏が4月27日に那覇市内でインタビューに応じた。

ビットーリオ・モルタロッティ氏

-なぜ今回「消滅危機言語」にスポットを当てたんですか?

モルタロッティ氏「今回の作品でも過去の作品でも『何を残すか』『記憶』といったテーマで撮っています。父と兄を交通事故で亡くしました。ちょうど兄が当時手紙をやりとりしていた方が日本に住む女性でした。その方を探しに行こうとしていた時に、東日本大震災が起きました。父と兄の死という『個人的な悲しみ』と、地震や津波という『国単位』での悲しみが重なった経験から、『何を残すか』をテーマにしています。私が兄の知人を探し尋ねるプロセスをハムゼヒアンさんに作品として撮ってもらったのが、初めての共作となった『The First Day of Good Weather』でした」

モルタロッティ氏「今回は『もうなくなってしまったもの』ではなくて『なくなってしまいそうなもの』をテーマにしました。今どんな状況にあるのか、という点を見せたかったからです」

-数ある消滅危機言語の中でも、与那国語(ドゥナンムヌイ)に着目したのはどのようなきっかけからでしたか?

モルタロッティ氏「ユネスコが出している消滅危機言語の中に、与那国語も含まれていることを知りました。沖縄の言語に詳しい社会言語学者のパトリック・ハインリッヒさんとのつながりがあり、すぐに与那国島へロケハン(撮影前の調査・下見)に行きました。2018年春のことでした。その時からすでに、ある程度の撮影を進めていて、それから本格的な撮影として2019年の3月、11月、2020年の3月にそれぞれ与那国に向かいました。合わせると4カ月ほどの期間です」

-イタリアの消滅危機言語問題はいかがでしょうか?

ハムゼヒアン氏「私の地元ベネチアの言葉もあります。やはり祖父母の代までは話すことができますが、親世代からは使える単語が減ったりしています。私自身も聞くことはできるけど話せない、といった感じです。ただ、ベネチアの言葉はまだまだ残っています。与那国の場合は、本当に消滅の危機に瀕していますから」

関係性の近さ意識「カメラ回さない時間も多かった」

アヌシュ・ハムゼヒアン氏

-今回、主な登場人物として中学生を選んだのはどうしてですか?

ハムゼヒアン氏「作品のテーマであり入口は『言語』だったんですが、島を訪れてみて与那国の抱える問題も知りました。医療が不十分なことや自衛隊配備の問題、ユタなど宗教的な人にも石垣島まで行かないと会えない、ということです。そんな与那国の現実を描く際の象徴的な存在として『島を出ていく中学生』を中心に据えてストーリーを展開させたいと思いました」

-中学生や家族、先生などと、かなり距離の近い関係性で作品を撮ったということが感じられます。

ハムゼヒアン氏「実際に、カメラを回している時間よりも、全くカメラを回さずに彼ら彼女と一緒に過ごしている時間の方が長かったです。その時間はとても大事でした」

モルタロッティ氏「ハインリッヒさんや八重山出身の通訳の方の協力で、外国人である私たちも島のみなさんの生活に入り込めやすい環境を作ってもらいました」

-作中では「国語の授業風景と与那国の言語」「吹奏楽と与那国の民謡」のように、対比となるような要素が散りばめられているようでしたが、そのあたりも意識して配置したんでしょうか。

ハムゼヒアン氏「もちろん島の伝統はたくさんありますが、若者は『現在の世界』に生きているのが現実です。子どもたちが島を離れる時の喜びも、たしかにありました。そのことを私たちも一緒に喜んで一緒に受け入れなければ、彼ら彼女らの気持ちを共有できないと思っています」

 言語と文化は、多くの人にとって当たり前にそこに存在しているがゆえに、灯台下暗しでその独自性や重要性に気づかないこともあるかもしれない。遠く離れた欧州で活動する2人の感性が切り取った与那国島のストーリーは、沖縄に住む私たちにも新たな視座を与えてくれそうだ。

■作品上映情報
https://yonaguni-films.com/theater02/#yonaguni

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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