首里城の瓦を記憶で繋ぐ 塩田千春さんが表現する『いのちのかたち』

 
塩田千春さんのインスタレーション『いのちのかたち』

 今年10月に開館した那覇市久茂地にある「那覇文化芸術劇場 なはーと」で、現代芸術家・塩田千春さんのインスタレーション『いのちのかたち』が開催されている。焼失した首里城の無数の破損瓦を使用した表題作は、展示された空間が丸ごと唯一無二の存在感を放っている。

 展示は開館を記念したこけら落としシリーズの一環で、2022年2月20日まで行われている。

記憶と感情の濃厚な気配

 塩田さんはベルリンを拠点に世界中で活躍しているアーティストで、沖縄での個展は初めて。場所そのものや空間全体を作品として体験させる大型インスタレーションを中心に、立体作品やパフォーマンス映像、ドローイング、舞台美術など多岐に渡る表現手法で作品を制作している。

 これまで世界各地で多数の個展を行ってきており、最近では2019年に東京都の森美術館で大規模個展『魂がふるえる』が開催された。

 展覧会のフライヤーには「失われていく人間の記憶や感情をかたちにして息を吹き込む作業が、私にとっては作品を作ることなんです」という塩田さんの言葉が添えられている。その言葉通り、展示作品を目の前にすると記憶や感情の濃厚な気配を感じられるだろう。

 「いのちのかたち」は照明が透過して赤に染まった展示空間の中で、縦横無尽に張り巡らされた糸によって瓦の欠片が宙に固定されており、まるで時がとめられたような錯覚を覚える。果たしてこのたくさんの欠片は、降り注いでいるのか舞い上がっているのか、などと想像を巡らせるだけでも面白い。

 2019年10月に首里城が焼け落ちていく光景を映像で目にした塩田さんは、衝撃を受けて「焼け落ちてしまった首里城の瓦に命を吹き込みたい」との想いで作品構想を始めたという。

糸に何を見る?

 このほか、なはーと周辺地域の市民を中心とした人たちから募ったメッセージを繋いだ「希望のダンス」、首里城や沖縄の歴史や文化芸術に関わる人たちから集めた思い出の詰まった小物を使った「小さな記憶をつなげて」の計3作品が施設内に展示されている。

 3作品全てに共通して使われている糸は、その「場」や「モノ」に縁ある人たちの記憶そのもの、あるいはその軌跡を可視化したかのように見える。それは直線の時もあるし、複雑に絡まり合う時もある。記憶や感情は目には見えない。それゆえ、その存在を意識することもあまりないけれど、こうした作品を見ることで世界を今までとは違った見方で捉えられるようになるかもしれない。

 「何だか分からなかったけど、何か凄かった」という、フワッとした感想でもいい。「凄い」と思った瞬間に何かを感じているし、それを無理やり言葉にする必要もない。「アートは難しい」という先入観を取っ払って、とにかくその場に行って実際に作品を見ることから始めればいいのだ。

 表現の解釈に決まりきった明確な“正解”は基本的には無いので、作品を目の前にした時に自分の頭にどんなことが浮かぶのか、どんなことを思うのか、どんなことを感じるのか、といったことを確認しになはーとに足を伸ばしてみるのも一興ではないだろうか。

 入場料金は無料。作品「いのちのかたち」(小スタジオ)のみ有料(一般300円、中高大学生200円、小学生以下無料)。

■関連リンク
塩田千春「いのちのかたち」(なはーとサイト内)
那覇文化芸術劇場なはーと WEBサイト

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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