1分1万の破格値動画制作 取り込むのはファスト化したSNS広告新市場

 

 企業広告動画など、一般的には何十万円もかかるのが相場の動画制作市場で、クオリティを担保しつつ「基本料金1分1万円」という超破格値で展開するクリエイターがいる。OKASHI製作所(宜野座村)の大城崇代表。安価で高性能な撮影機材やSNS時代の到来で「動画制作はもっと身近にあるべきだ」と、これまで埋もれていた“誰にでも手が届く価格帯の市場”の開拓に挑む。

個人でも動画が発注できる環境を

 「今のスマホって、プロ機材として使えるレベルの画質で映像が撮れるんですよ。そしてそれをみんなが持っています」。映像機器が日進月歩で進化を続ける中で、昨年12月に発売されたApple社のスマートフォン「iPhone12 Pro」は特に、色表現の細かさがプロが現場で使うカメラと比べても遜色無いものになったという。一般の人でもYouTubeやTikTokなどのサイトやアプリに、気軽に自作動画の投稿をする時代だ。

 大城さんは「もちろん、映画やテレビ番組、CMなど、人員や予算をしっかりつぎ込んだ高単価な動画制作は必要です。僕もそのような仕事に積極的に関わっていけたらとも思っています」と前置きした上で「これまでの動画制作の予算相場は、企業やお金持ちの人にしか手が出せない世界になっています」と話す。

 全くのオリジナルで企業のPR動画をプロが作る場合は「撮影から編集、納品まで1人でやるとしても最安でも10万円はかかる」(県内の業界関係者)という。

 一方で大城さんは、 “動画のファストフード化”があると指摘する。SNS上には動画広告が溢れており、人々は次から次へと短い動画を見ては次の情報に触れるようになった。「SNS広告の動画は、残念ながら1つの動画を何回も繰り返し見るものではありませんよね。なので、広告主は何回でも新しい動画を作って何回でも広告を打ちたいはずです。これが例えば、1万円だったら小さな個人店舗のオーナーでも毎月動画を作れます」

OKASHI製作所の大城崇代表

長い目で見ても「低価格帯は必要」

 大城さん自身、以前と比べて動画制作が素人でも簡単にスタートできる時代の恩恵を受けた。一眼レフカメラには動画撮影機能があり、動画編集ソフトは一般にも浸透している。制作のテクニックはYouTubeを見ると世界の誰かが教えてくれた。

 このような破格値で商売が成り立つのか。それを大城さんは「案件がないとクリエイターは育たない」と言い切る。「自分自身も試行錯誤の中で成長できますし、良いことしかありません。受注数を増やして若いクリエイターにも参加してもらい、人材を育てていきたいです」と見据える。

 目指すは、動画制作の発注を誰にとっても身近なものにして、人々がその思いを動画で代弁しやすい世の中をつくること。大城さん自身、この仕事を始める前は10代の時からずっと飲食業界で働いており、広告を発注する側のニーズに思いを巡らせる。「批判的な意見もあるかもしれませんが、長い目で見てもやっぱり、低価格帯の動画も存在すべきなんですよね」と、動画制作の世界に新風を拭かせる。


長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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