首里城火災から2年を前にシンポジウム 現状と課題を議論
- 2021/10/9
- 社会
首里城消失から2年が経過する10月31日を前に、教育・研究面で首里城再興に貢献することを目的に立ち上げた「首里城再興学術ネットワーク」のシンポジウムが10月3日、沖縄県、県立芸術大学との共催でオンライン開催された。各機関の代表者が首里城復興についてさまざまな角度から意見を述べ、復元の現状や課題、今後の展開などについて議論した。
復元の最大の意義は「県民の思い」
基調講演では県立博物館・美術館の田名信之館長が「首里城復元の意義と課題」と題して講演した。首里城の位置付けについても「歴史的学問的文化評価にとどまらず、沖縄を象徴するもの、県民の自分たちの存在にながるものとして捉えられている」と話した上で、復元の最大の意義は「県民の思い」であると述べた。
焼失については、火災当日の首里城付近に「深夜にもかかわらず多くの人が駆けつけて、涙する人もいたし、募金活動や寄付など一般の人たちが率先して動いた事例も多々あった。正殿については『レプリカじゃないか』と言う人もいるが、一方で県民の喪失感がさまざまな形で表出していたように思う」と振り返った。
また、首里城の機能が「王城、王宮、迎賓館、行政府、さらに聖域も含めて網羅していた」とし、琉球王国最高の芸術文化が集積され、それを発信する場所だったことも説明。これを踏まえ、今後の再建の過程、さらにその後にどのように新たな文化芸術を展開・発信していくのかということが課題だとした。そのほかの課題として、修復作業における職人の人材育成や、沖縄の歴史の主要な舞台としてどのようにストーリーを演出していくかについても言及した。
新たな防災体制の構築を
続くパネルディスカッションでは、復元を巡る議論を進められている中での現在の喫緊の課題として、田名館長が「防災」を挙げた。「全く防災をしていなかったわけではななかったが、それでも火災が起きてしまった。消防との兼ね合いも含め、国や県と連携しながら新たなな防火体制を築いていくことが1番大きな課題ではないか」とした。
さらに、平成の復元を終えた後に新資料が見つかったことも踏まえ、建築の面での研究・見直しをしながら再建を進めていかなければならないこと、正殿に注目が集まっているが南殿や北殿もあり、こうした建物の機能についての議論も必要だと指摘した。
まちづくりの観点からは、首里まちづくり研究会副理事長・いのうえちずさんが観光客の来訪によって首里城近辺で頻繁に交通渋滞が発生していた状況を説明。「交通を中心とした問題をそのままに再建を進めれば、何も変わらずにまた同じような問題が起こってしまう」と強調した。その上で、地域住民と観光客の双方にメリットを生むために同研究会で議論している地域コミュニティバスや新交通機構導入による歩行支援システム、さらに50年後の首里を見据えた「水の都」構想などを紹介した。