シルクドゥソレイユからオクラ栽培に大転身 舞台と農家の共通点

 

オクラ農家もパフォーマーも本質は一緒

 申し分ないほどのキャリアを積み重ね、順風満帆だった折の突然のコロナ禍である。パフォーマーがパフォーマーで居られなくなってしまった。シルク・ドゥ・ソレイユも例外なくそうなってしまった。

「地元沖縄に帰って、最初はショーの再開を待っていたけど一向に状況が良くならない。これは待っていてもダメだと思って気持ちを切り替えました」

 普通に考えると、今まで情熱を燃やしていたものが止まるということは、目標を失い挫折を味わいそうである。

「昔から新しいことを始めるのが好きなんですよね。今取り組んでいる農業も『挑戦』という意味では、非常にワクワクしています

 MASAさんは南城市で今年4月からオクラ農家として汗を流している。

日中の暑さを避けるため日の出と共に畑仕事に精を出す(本人提供)

「元々身体が資本なので、オーガニック食材は意識して採っていました。たまたま義理の兄が八重瀬町のピーマンを持って来てくれたのですが、大きいしみずみずしい。これは農家になって自分で安心安全な農作物を作りたいと思いました」

 農業経験は全くなかった。

「新規就農は実績を問われるので、農地の確保は大変でした。でも人のつながりで今の畑を紹介してもらいました。先輩農家さんも長年かけて培ってきたノウハウを惜しげもなく教えてくれる。おかげで毎日楽しく仕事ができて、周りのみなさんには感謝でいっぱいです」

特に両親には「こうやって自由にさせてくれてサポートまでしてもらって、感謝してもしきれません。いつか恩返しをします」との思いを誓う。

 よく、‘人生にムダなことはない’という言葉を聞く。『世界でステージパフォーマンス』と『地元で一次産業』、一見かけ離れているように思えるジャンルだが、ここに共通点はあるのか。

「時間をかけた分だけ跳ね返ってくるのは、同じだと言えますね。ダブルダッチは縄に触れた分だけ、農業は作物に触れた分だけ出来が良くなる。何より、どちらも人を喜ばせることができます

 人を喜ばせるという目的のための手段は、ダブルダッチでも農業でも変わらない。

「逆境や追い込まれている時こそ、自分の底が見える気がします。コロナ禍でパフォーマンスが出来なくなってしまったけど、それは自分でどうこうできる話ではない。それよりもそれを受け入れて次を見据えることにしました。無理だと言われれば言われるほど、自分は燃えるタイプです。今はオクラ農家として、『安全で美味しい野菜をひとりでも多くの人に届ける』を目標にやっています」

 紆余曲折に思える半生だが、筋の部分は一本でつながる。
 帰宅部が日体大を受験したことも、一番辞めそうと言われながらダブルダッチで世界一になったことも、夢物語だとされたシルク・ドゥ・ソレイユに合格したことも、そして未経験の農業で毎日楽しく働いてることも。

 全ては「無理だと言われるほど燃えて原動力になる」という前向きな姿勢だ。

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