エコツーリズム第一人者がやんばる世界自然遺産登録に大賛成の理由
- 2021/8/11
- 社会
知り尽くさない努力
他にも、多くの人間が森の地面を踏み固め、緑が剥げていくと降雨時にはそこから浸食が始まってしまう悪影響もある。さらには、森のどんぐりを人間が持ち帰ると、動物のエサや「森の更新」に必要な次世代の種が無くなってしまい、持続的な森の保全が難しくなる。
「『ここは世界自然遺産に登録された森です。すばらしいですよ。是非来てください』と募集をかけ、50人、100人と大勢で入ったとすれば、これはエコツーリズムではありません。僕は伊部岳(国頭村)には最大で6人までしか連れていきません。しっかりとしたガイド実施や安全確保の観点からも少人数にしています」
また、中根さんは「昔の人が自然と共存していた何百年も前からある古道や林道を歩く」ことを徹底している。元の自然に人為的な悪影響を加えないためでもあるが、敢えて“森を隅々まで知り尽くさない努力”を欠かせないためでもある。
「まだ見ぬ場所に珍しい花があることを知ってしまうと、人の口には戸は立てられませんから、話が巡り巡って、人はついついそこを目指してしまいます。そうすると心ない密猟者なども出てくる可能性もあります」
地域一丸となった安田区の環境保護意識
このように自然と調和したエコツーリズムが実現できているのは、国頭村安田区が地域を挙げて環境保護・保全に取り組んでいるからだ。人口約150人の小さな集落ながら「ふるさと安田区の環境を守り育てる規則」「安田区環境保全基金に関する規則」といった規則を次々と制定。やんばるエコツーリズム研究所とも協定を結んで、自然環境に配慮したエコツアーを展開している。
人間社会と生態系をマクロな視点で
中根さんがやんばるエコツーリズム研究所を立ち上げた1999年は「エコツーリズム」という概念そのものが普及するよりも全く前のことだった。
「地元の人からすると、当時は『マングローブなんて珍しいの?こんな所に観光で人が来るわけないでしょう』という意識でした。しかし、コザ(本島中部の沖縄市)出身の自分からすると『この自然はすごい』と思っている訳ですから。やんばるの自然を活かしたツアーを企画することは初めてだったので、どのように自然を守ってツアーをしていくべきか、そういう試行錯誤の意味合いからも『研究所』と名付けました」