女優・柴田千紘の沖縄めぐり「流しになったやちむんさん」編

 

路上から流しへ

 でも、やちむんさんは「俺けっこう家賃払ってるんだよー!」だそう。しかもなんと、この30年間音楽一本だけで生活しているそうです!(CDは売っているけどネットで曲を売ったりは今のところしていない)

 なので、どうしようかなぁととりあえず路上に立ち、興味ありそうな人が通り掛かると、その歩く速度に合わせてポロン、ポロン、と音を出す。でもやちむんさんは他のストリートミュージシャンのように誰もいなくてもずっと演奏しておくスタイルではないので、止まってくれた人がいたら「一曲いかがですか?」と
あくまでもリクエストしてもらって、歌うのです。

 いつもはにぎやかな国際通りですが緊急事態宣言がでて道はまっくらで、誰も通りません。路上にいても演奏できる機会は多くありませんでした。
 すると、同じように演奏している若者に声をかけられて、近くのお店で流しで演奏できるとこを教えられたのです。そこで飲んでる人たちのテーブルを周り、リクエストを聞いて演奏することになり、流しのやちむんさんが誕生したのです。

「ストレスはないんだよねぇ」

 のれん街は若い人が多いし、酔っ払いの中で演奏してお金をもらうって、なんだかメンタル的に苦しいことがあるんじゃあないかと少し心配になります。そもそも30年も音楽を続けられてる時点で、なにか表現のエネルギーになるストレスがよほどかかってるんじゃないかと安易な私は考えました。

 でもやちむんさんは「ストレスはないんだよねぇ」と言うのです。でも自分よりいくつも若いお客さんに「死ね」とか言われたよぉって。

…?!それでやちむんさんはブチギレないの?ストレスにならないの?!???

 心ない暴言を吐く人もやはりいるようですが、死ねと言われても別に怒ることはなく「それは出来ないなぁごめんねぇ」と次の席へ移動するだけ。そして興味深いのは、日本のお客さんはすでに知っている有名な曲をリクエストすることが多いという話。
 でもやちむんさん、自分の持ち歌、オリジナル曲しかやらないのです。音楽大好きな人や海外の人はむしろオリジナル曲しかないスタイルに喜んでくれるけど、日本のお客さんは「海の声やって!」「涙そうそう!」「アンマー歌って!」といった調子。確かにどれも素晴らしい名曲ですよね!

 とあるお客さんに「演奏するのはオリジナル曲のみ」だと伝えた時、面白いことを言われたそうです。どう言われたと思いますか?

「無理無理!!そんなの正解がわからないもん!」

 だそうです。なるほど日本人らしい!

 すでに知ってるものを基準にして、そこに近いか遠いかでウマイのかヘタか、イイモノなのかを判断してるのです。
 自分が好きか、どう感じるか、ということよりも「確認作業」がしたいというのは旅行なんかも同じで、自分で知らない文化や景色を探して出会うことよりもインスタやパンフレットですでに見た写真の場所に「確認作業」をしにいく流れがあるとよく聞きます。

 それで、申し訳ないけどオリジナル以外は演奏してないですと言うと、ふざけるなと怒り出す人が結構いるんだそう。勿論何を求めるかは好き好きでいいと思うけど、知ってる曲はまた他でも聞けるから、やちむんさんを見かけたら是非その出逢いでしか体験できない音楽を楽しんでほしいです!

流れるように状況に対応する柔軟さ

 そんな流しのいろんな芸人さんたちとも出会える牧志の「のれん街」も一時期しまっていて、今はまた復活しているようですね。今回お話を聞いて、流しの人たちってメンタルも強くないとできなそうだなぁ…とも思いましたが、なにより感じたのはやちむんさんの流れるような人渡り、職渡り、状況に対応していく柔軟さ。

 話す内容も、若い子たちとの付き合い方も、プライドや頑固な年齢の壁を感じませんでした。(ちなみにうちの父と完全に同い年でした)
 変にガツガツとしてないし、音楽はずっとそばにあるとしてもそれ以外にまた面白いことを知ったら全然乗り換えて働いていそうな、なんだかそんな気がするのです。

 ちなみにご本人の定義だと「『ミュージシャン』ってどんな曲でも頼まれたらそれを演奏できるでしょ?だから多分ミュージシャンではないんだよなぁ」ということだそうで「じゃあなんなんですか?」と聞くと「やちむんです」と。

 いや、わかります!笑

 そう、別にそこも既存の肩書きにわざわざはめこむ必要がないですよね。やちむんさんはやちむんさんで、こんなに柔軟だから、肩書きなんてどれでもなくて、なんでも出来る。

 私が女優さんですかと聞かれて「うん女優…もやるけど別に女優でもないし、ライターでももちろんないし、小説家でも監督でも絵描きでもない。でもどれもやりたいときにやらせてもらえたらやりますよね、旅人かな!」なんて答えてるのと似てる気がしました。旅人なら皆職業だとピンと来ていないから、ただ人間なかんじで1番言いやすい。

 これからコロナや色んなウイルスの問題を乗り切るのにも、誰にでも話しかけてもらえる在り方や、なんでも受け入れて試す柔軟さや、いろんなことができる選択の自由な心も一つの秘訣だろうなと感じました。

 本当に悔しい思いをされてる方も多いと思うのですが、悔しくて大変でもそれでも挑戦をしたいと思えるなら別として、ただ苦しいだけなら、諦めや、なんとなく乗ってみた先みたいに、少し視点を変えた所にも何通りもの生き方があると思うんです。

「諦めて先に進む」という生き方

 話しながらふと生きてきた年数を考えると不思議になって、なんでお父さんの歳で頑固じゃないの?なんでまだそんなに出会う人たちに興味を持って調べたりできるんですか?やちむんさんはお子さんやパートナーに執着して支配欲が出るようなことないですか?と聞くと、

「【諦念】(テイネン)だよ。人は諦めて先に進むんじゃないかなぁ、うまくいえないけど」

 と私が初めて聞く言葉で教えてくれました。

「10代まではしたよ。たしかタイトルも【諦念】という本を高校生の時に読んで、それからは人に執着しなくなった。その時読んだ本がずっと残ってるんだよね」

 10代で男の子が執着をなくすなんて、めちゃくちゃ早い。。っていうか、本ってすごいな!!!と改めて思いましたね。これは気になっちゃう。

 やちむんさんは少し私の感覚にも似てるなぁと勝手ながら思う部分があったのですが、これからも今を生きる気になる人をちょこちょこと紹介させていただいて多種多様な考え方や生活を聞いていきたいなと思います。

 私にもずっと気軽な友達のように接してくれて、友達が誘うとすんなり家に遊びにきてシーシャ吸っていたやちむんさん。
 それにしても、「てんちむ」さんに引っ張られて何度も「やんちむさん」と書き間違えてしまいました。全て訂正できたことを祈って終わりにします。

 ありがとうございました!

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