「貢献」強調の次期振興計画素案 沖縄の10年間を築けるか

 

 だが、「貢献」自体は前の振計からみられる考え方で、目新しいものではない。海に囲まれた沖縄にしかできない施策もあるだろう。チャレンジングな施策が全国の先例となるケースになるかもしれない。

 元県幹部は、「一括交付金はもともと沖縄が日本をリードするべき大胆な施策に取り組んでほしいと、県の要望を受け国が編み出したもの。これまでも沖縄はずっと国に貢献している」と言う。

 だが今回、これを振計の前面に強く打ち出したことで、物議を醸すことになる。計画策定の過程を熟知する別の元県幹部はこう話す。

「沖縄は安全保障上も存在そのものが貢献なんです。それをギブアンドテイク論でやると情念が入ってくるし、結局、『なぜ基地を置いているのか』という議論にはまり込んで前に進まなくなる。かつては国も県も『それはわかっている』という前提で、あえて『貢献』に深入りしなかった。いま、次の沖縄の10年をどうつくるかというときに国との関係がギクシャクし、苦し紛れにひねり出した理屈が『貢献』だったのではないか」

公然と語られる「リンク論」

 「貢献」を前面に打ち出すことは、リスクをともなう。基地負担の見返えりに振興を結びつける「リンク論」に直結することが避けられないからだ。元県幹部は、「沖縄の4つの特性、すなわち歴史特性、地理特性、自然特性、社会特性のうち、社会特性は基地問題と切って離すことはできない。その特性に鑑みて振興計画の必要性を訴える以上、リンク論はもともと自明のこと。表だって議論されることがなかっただけ」と話す。

 「リンク論」に注目が集まったのは去年9月。当時の菅官房長官が、那覇空港第2滑走路を巡って基地問題と沖縄振興は「結果的にリンクしている」と発言したのだ。法律上、基地問題と振興がリンクすることはあってはならないことから、政府の公式見解ではリンクはタブーとする。だが、県庁関係者は、「政府中枢からこうしたことが表だって議論されること自体、弱体化した県政が国に足元を見られ、大人の議論ができていないことの表れだ」と指摘する。

 そして、いまや県内の首長からも公然と「リンク論」が語られるに及ぶ。報道によれば、今月1日、自民党の沖縄振興調査会に出席した外間守吉与那国町長は、議員から「国に貢献できる振興策は」と問われ、「基地の提供と経済というのはリンクしているということだ」と述べたという。玉城知事が「リンク論」をいくら否定してみせても、「貢献」を前面に押し出した以上、もはや後戻りはできなくなった。

玉城デニー知事 写真:宮古毎日新聞社提供

振興計画の前に……

 波乱含みの次期振計の素案は、市町村の代表、関係団体や県民らつくる「沖縄振興審議会」に諮問され、議論される。12月には審議会が諮問結果を県に答申し、県は来年3月までに新たな振興計画案をまとめることになる。だが、素案が公表されたいま、次の焦点は沖縄振興特別措置法が延長されるか否かに移る。

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