「貢献」強調の次期振興計画素案 沖縄の10年間を築けるか

 
沖縄県庁

 6月1日、県は2022年度から10年間の振興のあり方を決める次期沖縄振興計画の素案を公表した。施策展開の基本的指針として、「『安全・安心で幸福が実感できる島』の形成」を掲げ、「誰一人取り残すことのない優しい社会」「強くしなやかな自立型経済」「持続可能な海洋島嶼圏」の3つを基本方向に据えている。だが、県の元幹部の評価は手厳しい。

「素案なので、言葉が短く端的になるのは当然ですが、大事なのは言葉の裏にあるプロセス。今回の素案からは背景にある積み重ねが読み取れず、極めて薄っぺらなものになっている。つまり、各方面と議論を重ねて練り上げた形跡が伺えないのです」

 例えば、計画の軸とするSDGs。持続可能な社会を目指すその理念を体現するものとして、「脱炭素島しょ社会の実現に向けたエネルギー施策の推進」を挙げ、具体的な項目の一つとして「沖縄らしい脱炭素社会を目指すため、二酸化炭素を排出しない次世代火力発電や、水素、アンモニアなど次世代エネルギーの最新技術の活用検討等に取り組む」とある。

 ただ、そもそも「取り組む」のは沖縄電力だ。現在、沖電の電源構成比率は石炭火力が6割超を占める。同社は昨年12月に「ゼロエミッションへの取り組み」を発表し、2050年までのカーボンニュートラルを目指すとして、確かに次世代火力発電や水素、アンモニアの混焼などに取り組む構えを示している。だが、具体的なプロセス、投資計画などは今後の課題だ。新技術導入のハードルから言えば、素案に書かれた言葉はあまりに軽い。

「沖電とどれくらい議論を重ねたのでしょうか。こうした項目一つひとつについて関係各所と詰めていないから、国や与党に素案を見せてもすぐにバッテンをつけられてしまう。マークシートはきれいに埋めることができたかもしれないが、記述問題で0点になってしまいかねない」(元幹部)。沖縄の次の10年をつくる計画にしては「目玉がなくインパクトが薄い。この計画で予算を取ってくるにはあまりにも迫力に欠ける」(同)という。

日本経済全体への「貢献」

 今回の素案では、1月の骨子案で盛りこまれた日米両政府に沖縄県を加えた協議の場としての「SACWO(サコワ)」の文言が削除された。また、大きな特徴のひとつに、沖縄が経済成長著しいアジアに地理的に近い優位性を活かしながら、日本経済全体への「貢献」が強く打ち出されたことがある。

 「我が国の均衡ある国土の形成にも貢献」「我が国の経済・社会の発展に貢献」「我が国の持続可能な経済成長と社会経済の発展に貢献」「海洋立国日本の新たな発展に貢献」…。冒頭の総説から「貢献」の言葉がこれでもかと続く。玉城デニー知事も素案発表の会見で「沖縄の振興が国家戦略につながることを示した」と胸を張った。

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