不妊治療に向き合う「情報共有の場が必要」 当事者夫婦に聞く

 

夫婦間での情報共有と信頼

 —人工授精の回数を重ねていく中で、夫婦間での話し合いなどは細かくしていきましたか。

 法和さん「この時期は妻がかなりピリピリしてて、日常会話みたいな普通のおしゃべりでも急にめっちゃ怒られることが増えました。どこに“地雷”があるのか分からないというか。それもあって、日々のコミュニケーションがだんだんと減っていきましたね。たぶん1番仲悪かった時期かもしれない。
 そして、これは男だから、自分のお腹を痛めないからということと、そもそも自分がそこまで子どもが欲しかったというわけではないことが前提としてあるんですけれど、個人的にはそこまで大変な思いをして子どもを作る必要があるのか、実子にこだわる必要があるのかとも思ってました」

 菜菜子さん「夫婦間での価値観の違いをとても思い知りました。所詮は他人なんだな、って思うことも多々あって。もちろん2人で頑張れることが理想ではあるんですが、違いの意見のすり合わせをすることと、理解し合うということとの間にもまた違いがあったりして、本当に違う人間なんだなと。だから、不妊治療を始めて離婚する人たちがいるのも『とっても分かるなー』って思います。実際、私たちの知人に何組か離婚している人たちがいるんです。
 夫はこんなに頑張る必要あるのかという思いがあったかもしれないけれど、私は私で『ここまでやったのに』という気持ちもあるから、もちろん簡単には諦められない。ある意味で切り上げるタイミングを見失ってたとも言えるかもしれませんが。」

 —そうした夫婦間の険悪な時期を乗り越えたきっかけというのはあるのですか。

 菜菜子さん「特別何かをしたというわけではないのですが、ピリピリしてた時期に祖母が亡くなり、治療を一時中断したんですね。その時に少し冷静になりました。祖母も含めて親類に子どもの顔を見せたいという気持ちももちろんあります。この時点で初めて母親に不妊のことを話しました。『孫見せられないかも』って謝りました。
 自分ばっかりこだわるのも良くないと考えて、夫とちゃんともっと話をしようという気持ちになって、少しだけ一緒にお酒を飲んだりしてちょっと仲良くなりました。『一歩間違ったら自分たちも離婚してたかも』と思う一方で、日々の中で悪いところに目がいったりもするけれど『この人は私を傷つけたいわけじゃない』という信頼があったので、今があるのかなと思います」

 法和さん「僕らの場合、不妊治療をする前から2人での情報共有の時間を持つことを習慣化していたのも大きいと思います。基本的に毎日お風呂入りながら話をするということをずっと続けていて。でも、今振り返っても不妊治療をしたら夫婦仲が悪くなるのは絶対に避けられないことだなと思いますね」

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