体に染み渡る滋味深い味わい 棚橋俊夫さんの精進料理(2)
- 2020/11/14
- 食・観光
「ここからが本番」。漆器のお膳に乗せられたのは、ごま豆腐。真っ白な豆腐に、紅葉とおろしたての山葵があしらわれる。箸で口に運ぶと、少しの苦味とともに濃厚なごまの香りが広がり、溶けてゆく。風味はこれ以上ない程にしっかりとあるが、余韻はとても軽やかだ。参加者の口からは、一口食べて「わあっ」という声が漏れ、シンプルだけれども奥深い味に陶酔した。
続いて出てきた椀には、きのことカブ、レンコン団子のすまし汁が注がれた。だしが昆布ときのこだけとは思えないほど、きっちりと効いており、体に染み渡る。レンコンの団子はすりおろしただけで、つなぎは使わないという。レンコンの優しい甘みとだしが調和し、きのこと青菜の食感がアクセントとなる。柚子の皮は口の中をさっぱりと整える。
ごまの奥深さ味わう白あえ
4品目は白あえだ。1時間かけてすった練りごまに、島豆腐と柿とリンゴ、そして春菊を和え、先のすまし汁の椀のふたを取り皿にして取り分ける。とろけるような柿とシャキッとしたリンゴの食感を島豆腐がなめらかにつなぎ、春菊が独自の香りで存在感を出す。そして、ごまの奥深い風味がそれぞれの食材を際立たせながら、全てを包み込む。自分ですったごまが使われたとあって、美味しさも感動もひとしおだった。
続く5品目は、10種の食材を贅沢に使った「吹寄せ」。ニンジンやゴボウ、レンコンに確かな歯応えを感じ、ゆり根、くるみ、そして生麩は顎の運動を柔らかく受け止める。銀杏とムカゴには弾力があり、噛み締める度に食感の違いが口を楽しませる。味付けは甘いみたらしだれ。控え目の味付けがそれぞれの食材の風味を底上げし、いくら食べ続けても飽きのこない味わいだ。
次いで皿に盛られた揚げ物では、果物のソースが活躍。きのこの天ぷらにはグアバを使ったソース。トロピカルな風味と油の相性は抜群で、爽やかな後味に。すりつぶしたさといもとオクラをナスに詰めたはさみ揚げには、柿のソースを合わせる。とろりとした卵黄のようなまろやかな味わいが口に優しい。付け合わせのハンダマのおひたしはからし醤油がピリッと舌を引き締め、モウイとみかんの和え物は口の中の油分をすっきりとさらった。