体に染み渡る滋味深い味わい 棚橋俊夫さんの精進料理(2)
- 2020/11/14
- 食・観光
食材の香りと調理の音
仕込みをする中で印象に残ったのは、様々な種類の野菜や果物が放つ自然の香りと、切ったり刻んだり、すり下ろしたりする音の心地よさだった。棚橋さんの精進料理はフードプロセッサーや電子レンジなどの機械は使わず、基本的に全て人の手で仕込む。根付いていた大地と葉、果実の皮や果肉のトロピカルな芳香の中、包丁が食材とまな板に触れ、おろし金の細かな目で根菜が優しくすりおろされる音は、安らぎの気持ちを呼び起こすように耳に響く。
午後6時。参加者十数人が揃い、食事がスタートした。「ちょっとひとつまみの前菜として」と棚橋さんが出したのは、1口サイズの3種盛り。輪切りにして種とワタごとよく焼いたゴーヤーは、味付けは醤油のみとシンプルだが、今までに食べたことがないほどに美味しく、島バナナとズッキーニの組み合わせは口に新鮮。さつまいもに乗るパリパリとした食感は、仕込みで取り分けた枝豆の薄皮を素揚げしたものだった。前菜の時点で、否応なく期待が高まる。