体に染み渡る滋味深い味わい 棚橋俊夫さんの精進料理(2)

 

食材の香りと調理の音

細かい目のおろし金ですりおろしたレンコンはふんわりと軽やかに

 仕込みをする中で印象に残ったのは、様々な種類の野菜や果物が放つ自然の香りと、切ったり刻んだり、すり下ろしたりする音の心地よさだった。棚橋さんの精進料理はフードプロセッサーや電子レンジなどの機械は使わず、基本的に全て人の手で仕込む。根付いていた大地と葉、果実の皮や果肉のトロピカルな芳香の中、包丁が食材とまな板に触れ、おろし金の細かな目で根菜が優しくすりおろされる音は、安らぎの気持ちを呼び起こすように耳に響く。

 午後6時。参加者十数人が揃い、食事がスタートした。「ちょっとひとつまみの前菜として」と棚橋さんが出したのは、1口サイズの3種盛り。輪切りにして種とワタごとよく焼いたゴーヤーは、味付けは醤油のみとシンプルだが、今までに食べたことがないほどに美味しく、島バナナとズッキーニの組み合わせは口に新鮮。さつまいもに乗るパリパリとした食感は、仕込みで取り分けた枝豆の薄皮を素揚げしたものだった。前菜の時点で、否応なく期待が高まる。

“前菜”3種盛り
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