岐路を迎えた沖縄縦貫鉄道 次期振興計画を前に「本気度」をどう示すのか
- 2020/10/22
- 政治
こうした提言自体は、鉄軌道構想が浮上した当初から繰り返し言及されてきた整備方式で、何も目新しいものではない。問題は、沖縄県のこうした“悲願”を、国がどこまで真に受けるか、だ。
後退する国の費用便益調査
「国と県の姿勢は、年々離れていっている・・・」
鉄軌道導入のため、内閣府が行った費用便益調査の結果を目の当たりにして、県の元幹部がつぶやいた。沖縄県振興特別措置法91条2項は、「国及び地方公共団体は、新たな鉄道、軌道に関し、その整備のあり方についての調査及び検討に努める」としている。この法律にもとづいて県と内閣府はそれぞれ、費用便益調査を行う。費用に対して便益が「1」以上、つまり黒字が見込めなければ、着工のゴーサインは出ない。
両者は毎年、「1」以上を目指して新しい工法やルートの精査、需要予測の調査を続けているが、今年、県がまとめた調査では入域観光客数を1350~1400万人と見込み、渋滞緩和でトラック輸送に生まれるメリットなども盛り込んで「1」超えとなった。
ところが、内閣府は、観光客数は1200万人とし、「高速AGT」など最新技術の導入でコストを圧縮しても、費用便益は「0.71」にとどまるとした。すなわち大幅な赤字が見込まれるということだ。コストがもっとも安い「トラムトレイン」(路面電車)の導入という考え方もあるが、交通渋滞をさらに招くため、「導入の可能性は低い」とした。
なぜ、こうした乖離が起きるのか。「県の調査は毎回、国に報告している」(交通政策課)という。が、前出の元県幹部は「条文上は、国と県はそれぞれ調査をするのだが、以前は水面下で密接に連携していた。いまは条文通り、ばらばらの調査になってしまっている」と言う。
別の元幹部は、「現状は調査のための調査。新しい振興計画が始まる次の10年では、事業化する前提で国と県が一緒に調査を行うべきだ。県の本気度を示さなければ、鉄軌道の実現は遠のいていく」と危機感をあらわにする。
10年前の「原点」から学ぶ
この元幹部は、「後ろ向きになりつつある国を引き戻すには、鉄軌道構想が浮上した原点に立ち返る必要がある」という。
「原点」とは、2010年3月に県が公表した「中南部都市圏における新たな公共交通システム可能性調査報告書」のことだ。この報告書の中で、「普天間基地返還跡地を含む中南部都市圏の持続可能な成長を支援する新たな公共交通システムの導入可能性を検討する」と記され、そのシステムとして「鉄道」や「LRT」などが具体的に提言された。報告書の作成を担った元幹部が明かす
「モノレールの開業(2003年)から数年が経ち、次は鉄軌道だと当時の仲井真知事から直接、指示があった。ただ、鉄軌道の整備は『沖縄県総合交通体系基本計画』にのっていない。交通政策として、ここにのっていないものを国は認めない。それならばと、基地対策の一環として鉄軌道の導入を求めることにしたのです」
つまり、「慢性的交通渋滞の解消」という文脈より、米軍普天間飛行場の返還後の跡地活性化を前面に出す戦略だ。