「地域の緊張緩和」促進を 玉城知事の中国訪問

 
沖縄県庁

 沖縄県の玉城デニー知事が、今月上旬に日本国際貿易促進協会の一団に同行して北京を訪問し、中国の李強首相らと面談した。6月4日には、習近平国家主席が中国共産党の機関紙「人民日報」1面で「琉球」について言及し、波紋を広げた。

 これまでも、沖縄の知事が訪中したことは何度もある。今回、これほど話題となったのは、ロシアのウクライナ侵攻により、21世紀でも大国が戦争を起こすことが明らかになったほか、台湾周辺で中国が軍事演習を行うなど地域の緊張が高まる中で、辺野古をめぐり政府と対立する玉城知事が中国を訪問したからにほかならない。

 今回の訪中では、中国側に今後の展開も含めた過剰な期待があったようにも考えられる。戦後、基地問題で沖縄が揺れ続けてきたのは確かだが、沖縄が希求してきたのは、あくまで基地負担の軽減と平和だった。基地に反対する運動と、独立運動は全く別のものだと言える。

 一方、玉城知事の訪中に関連し、中国メディアが以前のように沖縄の帰属が確定していないとも受け取れる報道をしなかったことは、中国側の自制として評価して良い。

 県が進める「地域外交」のゴールを問われた際、玉城知事は「世界平和」と答えた。地域外交は、沖縄が戦後一貫して追求してきた平和主義に基づくもので、中華圏への復帰という考えはないように見える。

 そうであれば、今回の知事訪中について、日本政府が本音はともかく表向きは「歓迎する」とコメントしたのは理解できる。台湾問題にしても、平和主義の考えからすれば、「対話による解決を促す」という日本政府の立場と、異なることはないだろう。

那覇市の守礼門(資料写真)

 中国側の一部にあるとみられる「沖縄の中華圏への復帰」の願望について、理解できる部分が全くない訳ではない。琉球処分時、沖縄側は清朝に助けを求めたが、アヘン戦争以来、国力が衰退していた中国は救いの手を差し伸べることができなかった。

 百数十年ぶりに、世界大国としての国力を取り戻した中国が、沖縄について思うところがあるだろうことは、想像にかたくない。欧米や日本が作った国際秩序について不満があることも推測できる。

政府による緊張緩和の呼び掛けも一案

 ただ、沖縄と日本本土には戦後、民主主義が根付いた。そういう沖縄を含めた日本側と、習氏の下で集権化を強める中国側が、石垣市登野城の尖閣諸島問題を抱えながら、どのように折り合えるかは、今後の課題と言える。

 米国も、国務長官らが訪中しているが、中国との向き合い方には苦労しているように見える。県の動きを、複雑な思いを持って見守っているだろう。

 戦前、日本は欧米の国際秩序の変更を求めて戦争に突き進み、沖縄戦など大きな悲劇を見た。現在の中国側の心情について、理解した上で説得できるのは意外と日本しかないかもしれない。

 ウクライナで戦争が長引いている今、政府がアジアでの緊張緩和を呼び掛けるのも、一つの方策ではないだろうか。(真栄城徳泰)

(記事・写真 宮古毎日新聞)


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