奥深きハンド7mスローの“極意” 新記録樹立したコラソン・仲程海渡に聞く

 

「自分を俯瞰」プレッシャーを楽しむ

後ろに体重をかけて溜めをつくる仲程

 長いシーズンにおいて、9割超の成功率で決め続けることは容易ではない。1本外すと迷いが生じ、コースが悪くなったり、球のキレが落ちたりして成功率が下がるというのもよくある話だ。しかし、仲程はシーズンを通して5本ミスしたが、2本続けて外すことは一度もなかった。独自のメンタルコントロールの方法に、その秘訣がある。

 「1本止められると、やっぱり不安は大きくなります。サイドプレーヤーはシュート1本1本の重みを強く感じるポジションでもあるので。でも、外した後の7mスローを打つ前に、自分の中で不安が大きくなってるのが分かったんです。その時に自分を俯瞰するようにしました。『次も止められるじゃないの?』とか『これ決めたらさっきのミスがチャラになるぜ』とか心の中で自分に話し掛けながら」

 幼い頃から野球選手のイチローさんが好きだったという。「バットの置き方一つを取っても丁寧でかっこいい。細かいところを突き詰めるためには、俯瞰して自分を見れないとああはなれないなと思っていました」。学生の頃から自身を客観的に分析することが癖になっており、それが生きた。

 7mスローは味方が体を張って獲得することが多いため、プレッシャーも大きい。仲程自身も「チームメートが取ってきてくれた7mスローは気合が入るし、特に若手が頑張って取った時はより感情が昂る」という。ただそれ以前に、激しくスピーディーなハンドボールの試合の中で、GKとの1対1という特殊な状況を楽しんでいる自分もいるようだ。

 「ハンドは7人ずつの対戦だけど、あの瞬間だけは1対1で、会場で自分しか見られていないんです。自分は引退して普通に働いていた時期もあるので、大人になって、こうやって真剣勝負ができる環境があるということは本当に恵まれていると感じています。ですので、7mスローは『あの空間は楽しむ以外ないでしょ』って思うんです」

「自分に合ったやり方を突き詰める」

シュートを決め、ガッツポーズを決める仲程

 「ここまで入るとは、正直想定していなかったです」と自らも驚く新記録だが、独自のスタイルを確立し、強いメンタルを貫いた結果だろう。来シーズンに向けても「研究されてどうなるかは分かりませんが、それでも自分にとって最善の方法を考え、変化を恐れず、行動していこうと思います」と飛躍を見据える。

 インタビューの最後に「学生に7mスローの助言をするとしたら?」という質問を投げかけてみた。答えはこうだ。

 「やっぱり自分に合った方法を突き詰めるのが一番いいと思います。シュートのバリエーションが豊富な人は、その技術を磨く。僕はそうではなかったので、いい意味で諦めて、自分の得意なことを突き詰めました。結果的にそれでシュートが入り続ければ、周りからもそのやり方がかっこいいと思われるんじゃないかなと思います」

 さらに言葉を重ねた。

 「周囲の反応を変えるのに1番早いのは”結果”だと思います。その結果を変えるには、考え方を変えなければいけないですし、その後に必ず実行に移さなければいけません。そうやって積み重ねた1本1本が、こうやって誰にも届かなかったところに届きました。これは僕の人生にとっても貴重な経験になったと思います」

 試行錯誤を繰り返しながら、30歳にして日本ハンドボール界における一つの金字塔を打ち立てた仲程。今後のさらなる活躍に注目だ。

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長嶺 真輝

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ながみね・まき。沖縄拠点のスポーツライター、フリーランス記者。
2022年3月まで沖縄地元紙で10年間、新聞記者を経験。
Bリーグ琉球ゴールデンキングスや東京五輪を担当。金融や農林水産、市町村の地域話題も取材。

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