子どもたちの体験格差に向き合う 沖縄の部活動派遣費問題で冊子発行

 

 公益財団法人「みらいファンド沖縄」が、沖縄・離島の部活動等派遣費問題白書の発行を記念したシンポジウムを2月18日に開いた。同白書にはみらいファンドが2020年から3年間に渡って手掛けてきた、子どもの体験保障という観点から部活動に取り組む子どもたちの沖縄県外派遣を支援する事業を通して可視化された現状と課題や調査報告、今後の提案などがまとめられている。
 みらいファンド副代表理事の平良斗星さんは、今現在が派遣費問題の解決に向けてまだ踏み出したばかりの状況とした上で「色々な子どもが『こういう体験をしたい』ということをきちんと実現するためにも、市民で問題を発見して政策提言までもっていくことが重要です」と強調した。

可視化された問題の“多様性”

 シンポジウムでは、子どもたちの支援に直接携わった団体の代表や離島地域の市議会議員、県内メディアなど様々な分野の登壇者がそれぞれの視点から意見を述べ、現時点で明らかになった問題点の整理や認識の共有を行った。

 派遣基金事業を振り返る分科会では、派遣費問題を「子どもの体験保障」を目指した活動の第一歩として位置づけていることを確認。派遣費は行政や学校からの補助があるものの、これまで基本的に当事者負担が多かったことや、「派遣費は家計で負担すべき」という価値観も根強くあることも報告された。

 ひと口に「部活動派遣費問題」と言っても、その中身には地域や子どもの年齢、さらには部活の種類によって直面する課題にグラデーションがあるため、全てをまとめて同一に議論することはできない。それゆえ、解決の道を考えるために実情や背景を切り分けて考える必要がある。

 白書では、大きく以下の7点に切り分けている。すなわち、①生活している地域による旅費格差、②競技種目による費用負担格差、③強化活動に参加できず成長の機会が奪われること、④生活している地域による成長の機会の格差、⑤障がいを持つ子どもの派遣、⑥子どもの体験の質に関わる保護者・指導者の帯同、⑦短期間での煩雑な旅行手配、といった項目だ。

 みらいファンドは今後も派遣基金を通じて支援を継続する予定だが、上記のような課題の“多様性”が明らかになったこともあり、その全てに対応することは困難という見解を示す。その上で、問題や価値観へアプローチしていく上で、行政、企業、メディア、外部団体などとの連携を意識することの重要性を強調した。

部活動の費用負担は“自己責任”なのか?

シンポジウムの様子

 子どもの体験保障にフォーカスした分科会では、いわゆる「自己責任論」への言及が目立った。

 RBCでスポーツキャスターとして活躍する下地麗子さんは、派遣費の問題を番組で取り上げた際、視聴者から「そもそも保護者の生活レベルに合わせた部活をすべき」といった意見が寄せられたことについて触れた。その上で「本来は子どもたちの体験を保障すべきなのに、部活動を巡っては子どもの権利や貧困の問題が切り離されてしまい、自己責任で済まされてしまう傾向があるんです」と指摘した。

 芸術文化活動や子どもたちの支援に取り組む「一般社団法人CoAr」代表の幸地千華さんからも「部活よりも貧困問題に取り組め、という意見はありますね」と付け加えられた。「子どもたちにとっての『体験』とは何なのかをきちんと考えないといけません。本当は部活をやりたいし、本島や県外に行きたいけれど、様々な事情で諦めざるを得なくて自分に『どうせできないんだ』と言い聞かせてしまうような状況はとても良くないと思います」

 これらの話を踏まえて、子どもの人権問題に取り組む弁護士の横江崇さんは「そもそも『貧困』という言葉の理解が違っています」と指摘。貧困というと「食事すらままならない状態」などをイメージしてしまうことが多いかもしれないが、そうではなく「経験・体験を積むことができず、様々な機会が失われていしまっていることで、健全な成長・発達が阻害されている状況がまさに貧困と言わざるを得ないんです」と説明した。

 また、下地さんは報道する側の立場から「どうしても『~が優勝しました』という話ばかりがメインになってしまいます」と成績重視のニュースが多い現状にも触れた。派遣費問題で取材した中学生が、部活動を巡って大人たちの前でしっかりと発言するように成長したことを目の当たりにしたエピソードも話し、「勝敗だけでなく部活という体験を経た子どもたちの成長や、現在議論が進んでいる地域移行といったことにも気を配りながらスポーツを報道していきたいですね」と語った。

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