「分断しながらでも俺たちは生きていける」ASIAN KUNG-FU GENERATIONが3年半ぶりの沖縄公演 後藤正文さんインタビュー<前編>
- 2022/11/30
- エンタメ・スポーツ
音楽が証明する「シェアする、共有する」可能性
――そんな状況の只中で、音楽が救い…とまで言うと大げさかもしれませんが、エンパワーメントしてくれる「力」になっていることも確実に感じています。今この時に、音楽やアートと社会とを接続することについて、後藤さんはどんなことを感じながら曲を作ったり、音楽活動やってるのかなっていうこともお聞きしたいです。
「僕が尊敬するデイヴィッド・バーン(イギリスのバンド「トーキング・ヘッズ」のフロントマン)が「音楽自体に社会を変革する力は、残念だけどあんまりないんじゃないか」ということを言っていたんです。小説とか映画とかの方が、普段の生活の中で人々の動き方を形づくっている“コード”みたいなものを書き換えたりできるから、生活の様式とか人の流れとか、ある種のトレンドだったりとか、そういうものに作用することができるだろうと。それは本当にそうだなと思うんです。何かを物語として提示した方が、その影響をそのまま生活の中に落とし込みやすいというのは確かにあります。
だけど、彼が言っててすごく素晴らしいなと思ったのは「音楽にはコミュニティと、その人々たちを勇気づける力がある」ということなんですね。僕たちが感情を表現する語彙って実はあんまり多くなくて、喜怒哀楽の4分類ぐらいにされてしまって、それをどうにか押し広げるように、衛星のように言葉がある。そんな語彙力を使って生きてるんだけど、音楽っていうのはそれを超えた「フィーリング」としか呼びようがないもので感情表現することができるんです。
それってガチガチに言語で縛られた、イデオロギッシュな何かを飛び越えたりする。例えば、めちゃくちゃ右派的な考えの人と、めちゃくちゃ左派的な考え方の人も、同じ音楽で同じフィールを得ることができる。これって結構な可能性なんじゃないかと思うんですよ。ここまで分かち合えない私たち、何もかも違う私たちが、一瞬でも同じ何かを感じることができる。言葉にはできないけど、今同じようなことを感じたよね、っていうことを体験をすることが可能だと音楽は証明してくれるんですよね
「シェアする、共有する」「共通項はあるんだよ」という可能性を見せてくれてるんじゃないですかね。分断しながらでも俺たちは生きていけると。デイヴィッド・バーンが言ってるのは「ある種の共通項を持ったコミュニティの人たちの中に、さらなる強い共感性を生み出すことができるのが歌や音楽の力」ということなんですけど、実はその周辺にも、さらに何か通じ合えるかもしれない可能性を開いていくエネルギーが音楽にあるんじゃないかというのが、最近の僕のなんとなく考えてることですね」
――それを体現するようにというか、後藤さん単独でも色んな分野を横断した活動をしてますよね。日本酒の造り手の人たちとコラボしたイベントもやってて、とても興味深かったです。
「端的に飯食ったり酒飲んだりするっていうのも、音楽と似てるよねみたいな話を醸造家の人たちとしたんですよ。お酒を飲む時に「よし、じゃあ今からみんなで一杯やって仲間うちで喧嘩しようぜ」って集まってこないよな、みたいな(笑)。飲みすぎると喧嘩が始まるかもしれないけど、宴みたいなものは人と人との結びつきを確認したり強めたりするためにあるわけで。お酒も音楽も度を過ぎるとダメだけれど、「力」としてはちょっと似たようなところがあると思ってて」
――さっきの「フィーリング」みたいなものを共有するという意味で。
「そうですね。宗教的なものとも縁がありますからね、音楽ってね」
(後編に続く)
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのYouTube Channelでは、アルバム『プラネットフォークス』を巡って、メンバーと小説家・古川日出男さんが対談し、レコーディング風景を交えながら今作について深堀りする5時間に及ぶ“メガインタビュー”が公開されている。
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