85歳の挑戦 地域に愛された中華店、資金募り復活へ始動

 

閉店間際の混雑 感じた喜びと心残り

李白亭時代の店内

 何度か移転したのち、市内有数の飲み屋街である中の町に李白亭をオープン。長年夫婦2人で深夜まで営業を続け、昔ながらのあっさりした醤油ラーメンや具材たっぷりで1番人気の五目ラーメン、旨味の詰まった麻婆茄子などが評判となり、地域に親しまれた。

 78歳の時に妻が体調を崩し、自身の年齢も考慮して1度は引退した。しかし常連客から「また李白亭の料理を食べたい」「お店を再開してほしい」との声が多く届き、「私の料理を望んでる方がいるなら」と1人で物件探しや設備の整備に奔走し、4年前に北京亭を出店。2年間のブランクを経て、80歳にして再出発を図った。

 細々と経営を続けていたものの、物件を所有するオーナーの都合で昨年に立ち退きが決定。年齢や費用を考えて再び再出店することは諦めた。

 しかし、閉店1ヶ月前に地元新聞やネットニュースで閉店情報が流れると、常連客や李白亭時代の顔馴染みらが殺到。「お店を再開していたとは知らなかった」「もう一度食べたいと思っていた」。常連や近隣店舗の職員も手伝いに駆け付け、店内には連日、笑顔があふれた。

北京亭が閉店する際に店の手伝いで駆け付けてくれた人たち

 ただ、喜びや感謝を感じると同時に、後悔も残った。

 「閉店直前はせっかく来ていただいても満員で入れない、調理が追い付かずオーダーストップ、3時間待ってもらったのに食材が品切れなど、料理が提供できないこともしばしば。最終的には注文数も制限するなど、大変申し訳なく、今でも最大の心残りとなっています」

体力の続く限り継続 後継育成にも力 

 再開したい気持ちはあるが、店舗探しや費用の工面は容易ではない。そんな時、以前から懇意にしている地域の友人からクラウドファンディングの提案があった。

 厨房から離れた今も「仕事をしてない時でも、頭の中で『どんな調味料を入れたら美味しくなるか』をずっと考えてる。それが楽しい」と探究心の衰えない仲本さん。「あと1年できるか、2年できるかは分からないけど、体力が続く限りやりたい。どうせ止めるなら後継も育成してから止めた方がいい」と挑戦を決意した。

 悩んでる時に見たテレビ番組にも背中を押された。

 「テレビを見ていたら、自分で一から柏餅を作ってる青森の90歳を超えたおばあちゃんが出てきた。自分で山に入って葉を取り、車内販売までこなす。『人間やればできるな』と思った」

地域の味を町ぐるみで継承 モデルケースに

北京亭の1番人気だった五目ラーメン

 プロジェクトを支援する1人に、パークアベニューで店舗を運営する沖縄県ローラースポーツ連盟理事の仲本武史さん(54)がいる。名字が同じなのは「たまたまです」。

 北京亭のファンだった仲本さんがプロジェクトを応援するのには、ある理由がある。ゴヤケーキや定食丸仲など、コザでは近年、地域に愛された名店がひっそりと閉店するケースが続いている。

 「ゴヤケーキのシフォンケーキはとても有名だったけど、閉店してレシピが分かる人がいなくなってしまった。店主が元気なうちに、町ぐるみで馴染みの味を継承していく。これが成功すれば、いろいろな地域にとっての良いモデルケースになると思っています」

 誰にでも思い当たる店があるであろう地元、地域の味。それを本気で守り、継承していく。優しさと地元愛にあふれたプロジェクトが、コザの街で始まっている。

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長嶺 真輝

投稿者記事一覧

ながみね・まき。沖縄拠点のスポーツライター、フリーランス記者。
2022年3月まで沖縄地元紙で10年間、新聞記者を経験。
Bリーグ琉球ゴールデンキングスや東京五輪を担当。金融や農林水産、市町村の地域話題も取材。

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