県内若手役者が集結して挑む三島作品 演劇ユニット多々ら『弱法師』
- 2022/11/24
- エンタメ・スポーツ
沖縄県内で活動している「演劇ユニット多々ら」が11月26~27日に、演劇作品『弱法師(よろぼし)』(作:三島由紀夫)をアトリエ銘苅ベースで上演する。普段は一人芝居の公演を中心に行っている「多々ら」だが、今回の上演はゲストを招いたプロデュース公演「白昼夢」シリーズの一環で、キャストは県内の若手フリーランス役者で固める。「多々ら」主宰の新垣七奈さんは「若手でやるからこそ、ということで高い壁に挑んでいます。この挑戦を見届けてほしいです」と来場を呼び掛け、本番に向けて稽古に熱を入れている。
「今まで聞き流してしまった教えと向き合う」
演目の『弱法師』は三島由紀夫が1956年に出版した戯曲集『近代能楽集』に収められている作品。戦災によって盲目となってしまった青年の親権を巡り、実父母、養父母が争う様子が、家庭裁判所の一室を舞台に繰り広げられる。
新垣さんは公演にあたり、作品を「戦争により傷を負ってしまった者、その傷に恐怖を感じながらも理解しようと努める者、その傷に寄り添おうとした者の、それぞれの交わりきれない孤独を描いた物語だと感じています」と位置づける。
さらに、作品を通して今の20代の感覚から戦争と沖縄を考えることについて「沖縄で生活する私にとって、弱法師に描かれている情景や言葉は、今も残る沖縄戦の傷と重なる部分が多いと感じています。 弱法師に取り組むことで、今まで聞き流してしまった教えと、今一度向き合わなくてはいけない」とコメントしている。
作品を通して同世代の横のつながりを構築したい
2017年に演劇プロジェクトとして活動を開始した「多々ら」は、新垣さんと仲本蓮さんの2人から成る演劇ユニット。主な活動は一人芝居の本公演に加えて、県内の高校生と共に演劇を作り上げる舞台企画「寄りみち公演」にも取り組んでいる。
今回の『弱法師』公演の大きな目的の1つには「作品を通して対話することで、同世代での横のつながりを作る」ことがある。
というのも、県内には特定の劇団に所属しないフリーランスの役者が多く、実際今回のキャストも全員がフリー。先輩や後輩、そして同僚がいない中で、作品への配役依頼を始め、役者同士での対話の機会や場があまり無い現状を新垣さんは憂慮している。
「本業があって演劇にかけられる時間が限られている中で、10年後に演劇を続けている同年代はどれだけ居るのだろうか…と思うんです。たくさんの先輩方が現役で活躍されているんですが、いつかくる世代交代の時のため、そして後進のためにも、同世代にどんな人たちがいるのかを知って、横のつながりを作っておきたいという気持ちがあります」
県内の演劇公演では劇団員でキャストが完結したり、主宰者と役者とのつながりで配役が決まったりすることが多く、あまりオーディションが開かれない傾向にあるというが、今回はキャストをオーディション採用した。「初めましての人が多くて、自分たちで集めるだけでは出会えない新しい広がりができました」と新垣さんは語る。
20代の感性は「自分たちなりの“完成”」を見出すのか
演目の『弱法師』は、三島由紀夫による能の演目を翻案にした世界的にも読まれている一作。演出家の蜷川幸雄さんと俳優の藤原竜也さんのタッグや、昨年にはジャニーズグループ「King & Prince」の神宮寺勇太さん主演でも上演されるほど注目度の高い作品でもある。「三島由紀夫の言葉に圧倒されながら、役者のみんなと理解を深めるための対話の時間を大切にしながら磨き上げています」と新垣さん。
さらに、戦争をテーマに含む作品でもあるため、2022年現在の20代としてそのテーマにどのように臨むのかということにも直面している。
「戦争という題材は、私たちの誰も経験もしていないし正解も持っていないので、題材としては果てしなく“遠い”んです。でも、そこで自分たちなりに憶測や仮説を目一杯に広げながら向き合っています。そうすることで、分かりやすい設定の舞台とは違った複雑さが生まれてくると感じているんです」
20~26歳という座組で、どのような「自分たちなりの“完成”」にたどり着いた舞台が繰り広げられるのか、会場で確認してほしい。
<公演情報>
・演劇ユニット多々ら 白昼夢『近代能楽集 弱法師』(作:三島由紀夫、演出:新垣七奈)
・上演日時:2022年11月26日、27日…ともに13:00/19:00開演の2回公演(30分前開場)
・会場:アトリエ銘苅ベース
・チケット:前売りは一般2,500円、U-23は1,500円(当日500円増)
・主催:演劇ユニット 多々ら