沖縄にこそエンバーミング(遺体衛生保全)センターが必要な理由

 
株式会社敬天の當眞ゆい代表と當眞嗣音さん

 「エンバーミング」という言葉をご存じだろうか。日本語では「遺体衛生保全」という意味で、故人の容姿や身体をできるだけ元の姿に保ちつつ、衛生的にも安心・安全をしっかり確保することで、より良いお別れの環境を提供することができる技術だ。遺体に適切な処置を行えば、新型コロナウイルスに感染して死亡した人にも遺族らが直接対面して一緒に最期の時間を過ごすことができるなど、残された人々の心のケアにもつながっている。

 日本遺体衛生保全協会(IFSA)認定のエンバーミングセンターは2021年4月時点で、24都道府県に71カ所あるとされているが、沖縄県内には未整備だ。離島県で他府県のセンターへの移送が難しいことや、高温多湿な気候からも、沖縄県にこそエンバーミングセンターが必要だとの声が高まりつつある。姉弟で納棺業を行う株式会社敬天(南風原町)は、県内初のエンバーミングセンターを設立するためにクラウドファンディングを行っている。同社の當眞ゆい代表は「心残りのあるお別れをしないために、きれいなお顔を見て、残された方々がちゃんと思いを伝えられる機会は絶対に必要だと思います」と話し、その必要性を訴える。

エンバーミングとは

(イメージ写真)

 エンバーミングには大きく3つの技術がある。①遺体の腐敗を止める「保全」②生前の面影を取り戻す「修復」③細菌やウイルスから遺体を清潔に保つ「殺菌」だ。

 発祥は古代エジプトで死者をミイラにしたことに遡る。近代に入ってからは、エンバーミング技術が遺族との“より良い別れ”を目的として発展していった。その契機はアメリカの南北戦争で、戦死した遺体を少しでも“在りし日に近い状態”で家族の元へ返すためにという理由からだった。

 欧米など土葬の習慣がある地域では、エンバーミングを施して、遺族らが別れの時を過ごしてから土葬するため、その技術が長らく応用されてきた。火葬の習慣が一般的な日本にエンバーミングが入ってきた歴史は新しく、1988年に埼玉県で最初に導入された。

全国初の「移動型」エンバーミングセンター

 今回のクラウドファンディングで設立を目指すのはトレーラーハウス型の“移動式”エンバーミングセンターで、実現すれば全国初の事例となる。呼びかける支援額は1000万円で、トレーラーハウスの購入費に充てる予定だ。1000万円を超えた場合は設備費や広報費として活用する。

 移動式とするのは災害などの非常時を想定しているからだ。建物のライフラインが断たれてしまっても機能することが可能で、エンバーミングを必要としている場所に駆け付けることのできるセンターを目指す。ゆい代表は「県や市町村とも災害協定を結んで、自衛隊や警察とも連携していきたい」と展望している。

「美しい思い出を呼び起こせる表情を」

 沖縄県内にエンバーミングセンターはないものの、ゆい代表の弟である當眞嗣音さんがIFSA認定エンバーマー(エンバーミングを行う人)の有資格者で、遺体を「修復」する技術を持つため、センターが無くてもできる一部の技術については、県内でも施術している。病気で痩せたまま最期を迎えた人の顔をふっくらとさせると、遺族は「(故人が)帰ってきた」と喜んでもらえるという。

 ゆい代表は葬儀の在り方について「残された方々は『生前にもっと何かしてあげられたはず』と後悔の念を抱いてしまうことも多いんです。亡くなった人に『何をしてあげられるか』という愛を表現する場だと感じています」と話す。「生前に伝えられなかったことを、顔を見て伝える時間はとても大切です。故人の表情が穏やかでないと余計に悲しみにつながってしまいます」

 ゆい代表は言葉を重ねる。「美しい思い出を呼び起こせる表情を見せてあげることが大切です。一見すると髪がぐしゃぐしゃだったとしても、遺族の方は『これがいいんです。いつものおばあちゃんだから』と喜んでくれました」。求められていたのは、その時限りの特別なヘアメイクではなく、一緒に過ごしたいつもの表情のまま、おばあちゃんがそばにいてくれることだった。

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