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病気に強い真珠貝の開発に期待 染色体に多様な免疫遺伝子発見、OISTなど
- 2022/11/11
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沖縄科学技術大学院大学(OIST、恩納村)などの研究チームが、病気の蔓延などにより、国内生産量の減少傾向が続く真珠を生むアコヤガイについての研究成果を発表した。アコヤガイの染色体ゲノムを再構築したところ、1対の染色体(第9染色体)の間に大きな違いがあることが分かり、それらの多くが免疫に関連する遺伝子だった。この発見は病気に強いアコヤガイの開発につながる可能性があり、真珠養殖業再興への貢献が期待されるという。
研究はミキモト真珠研究所や水産研究・教育機構の水産技術研究所などと共同で実施。研究成果は科学誌「DNA Research」で発表された。
生産量は20年で3分の1以下に
プレスリリースにコメントを寄せた東京大学の渡部終五名誉教授(北里大学客員教授)によると、養殖真珠は130年ほど前に日本が世界で初めて技術開発した。そのため、かつては世界に流通する真珠の大半を生産し、1990年代前半には真珠養殖の生産額は年間約880億円に上っていた。
しかし、1996年に顕在化した赤変病や赤潮をはじめとした海況異常が重なり、この20年間でアコヤガイ真珠の生産量は年間約7万kgから2万kgにまで減少。近年も一大産地である愛媛県などで新種のウイルスが原因でアコヤガイの稚魚が大量死するなど厳しい状況が続いている。
遺伝子の多様性が高い免疫能力の鍵に
アコヤガイには14対、28本の染色体がある。従来のゲノム配列決定は1対の染色体を統合するが、この手法では再構築したゲノムの一部情報が損なわれてしまうため、今回はそれぞれ親から受け継いだ染色体ペア間の違いを調べるために別々に再構築した。海産無脊椎動物を対象とした研究でこの手法を用いたのは初めてのケースだという。
その結果、第9染色体のペア間に違いが見られた。これらの遺伝子の多くが免疫関連だったため、研究論文の筆頭著者2人の内の1人であるOISTマリンゲノミックスユニットの竹内猛博士は「1対の染色体上に異なる遺伝子が存在するということは、タンパク質が異なる種類の病原体を認識できる可能性があるため、重要な発見です」と解説する。
養殖業では生存率の高い系統や美しい真珠を作る系統同士を使って繁殖させることが多いが、近親交配になり、遺伝的多様性が低くなる。実際に今回の研究により、近親交配を3回繰り返すと多様性が著しく低下することも分かった。
免疫関連の遺伝子が多く存在する第9染色体で遺伝的多様性の低下が起きた場合、免疫能力の低下につながる恐れがあるため、竹内博士は「養殖個体群のゲノム多様性を維持することが重要です」と説明。研究成果をもとに新たな繁殖のあり方を構築すれば、病気に強いアコヤガイを繁殖することができる可能性を示唆した。
国産真珠の特徴解明にも期待
また、今回のゲノム研究の成果は病気に対する耐性強化に繋がる可能性があるというだけにとどまらない。前出の渡部名誉教授が指摘する。
「免疫系に関わる遺伝子の多くが同定されており、なぜアコヤガイが外部から導入した異質の物体に反応して真珠層を形成して、それを包み込むことができるのか、真珠形成そのものの謎にも迫るものである」
また、日本のアコヤガイを母貝とする養殖で生産される真珠は、他の真珠母貝から生産される真珠には見られない独特な気品のある輝きがあるとし、「今回の研究はその特徴が遺伝的に解明される端緒となることも期待される」とした。