【教員免許更新制度廃止へ②】教員の危機的状況を脱する契機となるか

 

 そんな多忙な先生たちが10年目に無理矢理受けさせられる更新講習。現場のミドルリーダーとしてさらに忙しくなるこの世代から、時間と費用を強制的に奪うこの制度に現場の不満が募るのは、むしろ当然かもしれません。

教員を取り巻く危機的状況

 とにかく忙しい先生方。多忙な教員の実態としてよく指標になるのが残業の多さです。文部科学省が毎年実施している「学校の働き方改革のための取組実態調査」では、例えば中学校の先生で、残業が1か月45時間を超える割合がおよそ7割、そのうち80時間を超える割合がおよそ3割と、とても忙しい実態が表れています(小学校や高校でも概ね同じ傾向)。

 しかし、問題は多忙化だけではありません。年間300件に迫る(令和元年度は273件)わいせつ行為や年間600人に迫る(令和元年度は550件)体罰・暴力、さらには5,000人を超える(令和元年度は5,478人で過去最高)精神疾患による休職。教員を取り巻く環境は依然として危機的な状況にあり、これを脱するどころか、じわじわと悪化するのを止められずにいるのが現状です。

文部科学省
文部科学省

環境の悪化が招く教員採用試験倍率の著しい低下

 事件が起こるたびにこうした苦境が報じられ、教員という仕事に対するイメージは近年どんどん悪くなってきていることは事実でしょう。結果として、なりたい職業としての教員人気は低下し、優秀な人材が教員を目指さない、優秀な若手教員が他業種へ流出するといった問題を誘発しまうことで、教員の質的・量的確保という最も重要なミッションが達成されないという深刻な危機を招いてしまいます。

 こうした傾向が端的に表れていると考えられるのが教員採用試験の倍率低下の問題です。倍率低下が直接教員の質低下を招いているとは断定できませんが、職業としての魅力が失われつつあるということを示す証拠の1つといえるでしょう。

 優秀な教員の確保が危ぶまれれば、すなわち日本の教育そのものが危ぶまれるということ。小学校での35人学級の実現やGIGAスクール構想など、今後の教育改革の柱となる重要施策の展開でますます教員の質的・量的確保が求められる中、今後はいかに魅力ある職業としてのイメージを回復できるかが重要になってくるのです。

中教審が示した“学び続ける”理想の教員像

 中教審が示した審議まとめ案では、教員の資質向上をどのように図っていくかという議論の前提として、「新たな教師の学びの姿」と称し、学び続ける理想の教師像を示しています。そもそも教師は学び続けなければならない。学び続ける主体的な姿勢こそ子供たちのモデルとなる。だから、学びを深められる環境づくりや個別最適な学びに資するコンテンツ、システム開発などに注力していくべきといった考え方が整理されました。

キャリアの魅力ある成長モデルで人気回復を! 

 しかし、今回提示された教員像や資質向上策の考え方には、山積する深刻な課題の解決を見据えた強いインパクトは全く感じられないと言わざるを得ません。最も重要なのは、これからの教員というキャリアには、有意義な学びと成長の実感があって、とても魅力的な将来構想があるのだという力強いイメージを示していくことではないでしょうか。いま働いている教員も、これから志望する学生も、誰もがイメージできるわかりやすい教員の成長モデルを国が打ち出していくことこそ、学び続けようと頑張る全国の教員のモチベーションの支えとなるはずです。

 中教審の審議では、免許更新制の廃止方針のみが注目されがちですが、本質の議論はまだまだ途中です。廃止後の資質向上策について、どれだけインパクトある前向きな政策を打ち出せるか。文部科学省の本気が問われていると思います。

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