遠山光一郎の「沖縄VSアジア国際都市」9:シンガポールに学ぶ留学制度

 
シンガポールマネージメント大学

 私は県費留学生としてシンガポール国立大学で学び、3年間働いた後、同大学で修士課程を卒業した。アメリカやオーストラリアの大学院も考えたが、シンガポールを選んだ理由は 1)アジア経済、発展の真っただ中にいられ中国語にも親しむ事ができる 2)アメリカであまり知名度のない大学に行くより、常にアジア大学ランキングで上位にいるシンガポール国立大学で学位をとる方が将来的にいいと考えたからである。

学問に勤しむシンガポールの大学生

 人材が唯一の資源と位置付けるシンガポール政府は当然、教育に予算をかけている。シンガポールの国立大学キャンパスは広大で緑に囲まれ、外国人だけでなくシンガポール人も多く入寮する学生寮も充実しており、また好条件でスカウトされた教授、講師陣の住居施設は高級コンドミニアムのようである。私は当時、大学の寮に入ったが、寮は男女に分かれておらず隣の部屋や下の階に異性が住んでいることに驚かされた。私も寮のオリエンテーションで知り合ったシンガポーリアンの妻(おかげさまで今年結婚20周年になります)と結婚したこともあり、政府の政策の一環なのか(?)高学歴同士の結婚事例も多いと感じた。日本の一般的な大学生の様に、私も沖縄国際大学在学中はバイトに明け暮れていたが、シンガポールの大学生は学期中のバイトはほとんどしていなかった。ゼミやテスト勉強で大学受験生並みに勉強しており、シンガポール人が普通に大学寮に入るのも通学時間さえも惜しく、大学に缶詰めで勉強するためである。

多国籍企業でのインターンシップや海外の学位取得も充実

金融街

 近年ではより実践的な学びの場になるように、前回のコラムで紹介した各ポリテクニックや各大学ではインターンシップに力を入れている。学生にとってシンガポールに進出している世界的な各分野の多国籍企業でのインターンシップができる経験はとても貴重だと感じている。シンガポール国立大学、南洋理工大学、シンガポールマネージメント大学などの各国立大学はシンガポール人だけでなくアジアを中心に多くの外国人も入学してくるため、小学校から学力別に数々の振り分けがされるシンガポール人学生にとって入学はとても狭き門となっている。ただ、国立大学に行けなくても、私立大学に通いながらアメリカ、イギリス、オーストラリアの大学の様々な学位が取れる環境が整備されており、国際的な大学教育を受けることに問題はない。ここでも高い水準の教育を受け、標準語に英語を使用しているシンガポーリアンの利点がある。

 他の国でもそうであろうが、シンガポールでも大学卒業後の生涯学習を奨励し、各校がコースを提供している。特にこのコロナ禍によりキャリアチェンジを促すため、専門分野の変更を柔軟に行えるような社会人向けコースや、社員の能力向上のための学習や資格修得のための企業向けコースの提供を、政府が多くの助成金でサポートしている。このコロナ禍を逆に社員能力向上や、国としての競争力向上の好機ととらえ、大学やポリテクニック(高度な各分野専門学校)が様々なコースを提供している。沖縄でも世界に誇る沖縄科学技術大学院大学があるが、いくら高度な教育・研究をしていても地元の学生が多くならないとそのメリットは限定的になるのではないであろうか。シンガポールの予算のかけ方は、そのいい手本となると思う。大学、企業、地元のつながりが大切であると思うし、シンガポーリアンの学力向上&インターン制度の充実、大学やポリテクニック研究機関と企業の共同による商品開発&特許ビジネス化など、常にメリットを最大化させようとする意思が政策に見える。

沖縄も留学制度の拡充を

沖縄県費留学でシンガポール国立大学の寮のみんなと(右から著者、妻)

 私は県費留学生として沖縄の外で学んだが、沖縄県が県費で南米を中心に多くの若い世界のウチナーンチュを迎え入れているように、県費留学制度をもっと予算的にも内容的にも充実させるべきだと考えている。大学だけで人材育成を完結させようとするのではなく、民間ももっと関わり、個人のメリットだけでなく沖縄全体のメリットにつなげるようにもっと貪欲になるべきだ。そうすれば、メリットがいい意味で沖縄及び世界中のウチナーンチュの間で循環するのではないであろうか。沖縄の唯一の資源は”世界中のウチナーンチュの若い人材”であると言える日を夢見ている。


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