コザ暴動は「反米暴動」だったのか① 前兆

 

軍法会議

 被告人ワードに対する無謀運転致死事件の軍法会議が70年12月7日、那覇空軍基地内で裁判官ウィリアム・W・リンター大佐、検察官チャールズ・E・ブラウン少佐、弁護人ヘンケル大尉立会のもと開廷された。

 開廷前の事前手続きで被告人は陪審員による裁判を求め、自ら証言しない、起訴状の朗読も不用と申し出ていた。その結果、事実認定、課刑するのは陪審で、裁判官は訴訟指揮を行うこととなった。訴訟指揮は、陪審員に起訴状に表示されている罰条の説明、証拠の採否を行い、審理を順序よく進行させる行為である。

 陪審員候補者一人一人に検察官、弁護人が「この事件のニュースを知っているか」「被害者との交友関係はないか」「被告人との関係がないか」などを質問した。不公正な裁判をするおそれがないかを確かめるためである。7人の候補者は全員陪審員に選任された。

 裁判官は陪審員に「貴君達は良心に従って証拠のみに基づいて事実の存否を判断しなくてはならない。起訴事実によると被告人は無謀運転によって金城トヨさんを死に至らしめたものである。無謀運転とは、運転者が、結果が発生することを知りながら、それを意に介さないで車両を運転することを言う。それは合衆国統一軍法典第111条に該当する犯罪である。有罪とするには被告人の運転が合理的疑いをはさむ余地のない程度に証拠によって証明されなければならない、疑いだけでは有罪にはできない」と説示した。

 裁判官は被告人に対し「事件についての答弁は」と聞いた。被告人は「無罪です」と答えた。

 検察官は、被告人は9月18日午後10時3分頃に糸満市糸満999番地先道路上で時速約50マイル(80キロ)の速度で車を運転していたとき、自分の車を道路脇に駐車していた車に接触させ、それが元で操縦不能となり同車の前方を歩いていた金城トヨをはねて死に至らしめた事実をMP、琉球警察官、琉球人目撃者によって立証するとの冒頭陳述を行った。

 MPは「現場に残っていたスリップ痕長さ58フィート(17.7メートル)、4度ブレーキを踏んだ痕跡があった、被告人に酒の匂いがあった」と証言した。弁護人は反対尋問で、ブレーキを4度踏んだ痕跡があったのか、58フィートの痕跡は1本か数本か、そして被告人の顔色、歩行状態など、MPに聞いた。MPは、ブレーキ痕は1 本であったが、道路の状況が悪く切れ切れになっていた、被告人には酒の臭いがしたが、顔色に変化はなくふらつかずに歩けたと証言した。

 続いて琉球警察官の久貝恵吉が証人台に立ったところ、弁護人から「証人には米軍人事件の捜査権がないから、現場検証で得た証拠に基づいて証言することは違法である」との異議が出た。検察官は「証人は本件事故現場での捜査権限がある。その権限に基づいた結果を証言することは許される」と異議却下を求め、裁判官は弁護人の異議を却下した。

復帰前のコザの街並み。沖縄県公文書館所蔵の写真

 検察官の尋問で久貝証人は、事故現場がカーブで慎重な運転を求める場所であるのに被告人は車を安全に運転する注意義務違反があったと証言した。弁護人は彼に執拗に無謀運転があったのかを問い質した。久貝証人は注意義務があったと繰り返し、弁護人は無謀運転があったかと質問をしたが、嚙み合わなかった。

 検察官の尋問で、事件当時、現場を走っていた森茂吉証人は「被告車が時速15マイルで走行していた自分の車を時速50マイルで追い越してカーブでジグザグ運転をして駐車中の車両に衝突したあと、その傍を歩いていた金城さんを撥ねたと証言した。弁護人は15マイルで運転したと言うが、速度計を見ていたか、被告人が50マイルで追い越したと言ったが、何を根拠に50マイルと言えるのかと、尋問した。森証人は、速度計は見ていないが、長年の経験で車の速度はわかると証言した。

 検察官の尋問に前盛初枝証人は「被告人の金城トヨさんを撥ねたのを見た」と証言した。弁護人は尋問をしなかった。

「スリップ痕から時速30マイル」。判決は

 弁護人は、証人マンガンモリの証言で、被告人の当時の運転速度が時速30マイル(48キロ)を越えなかったことを立証し、更に他の証人によって被告人が酒を飲んで運転していなかったこと、被告人が表彰を受けたことのある善良な軍人で、酒を飲んで車を運転しないことを立証するとの冒頭陳述を行った。

 マンガンモリ証人はスリップ痕から車の速度を推計する専門家であると述べた上で、被告人は4度ブレーキを踏んでおり、スリップ痕は不鮮明で残っていた長さ、形から時速は30マイルだった、更に現場に速度制限の標識はなく、速度は法定速度時速30マイルのところだったと証言した。その後他の証人が「被告人は真面目で、酒を飲んで車を運転していない、成績優秀で表彰を受けた」等々の証言をした。

 検察官は、被告人の無謀運転は森、久貝証言で十分立証した、被告人は有罪であるとの最終意見を述べ、弁護人は、森証言は科学的でない個人の意見で信用できないし、被告人が酒気運転をしたことは立証されていない。被告人の運転が無謀運転でないとの合理的疑いも消えていない、被告人は無罪であると最終弁論で述べた。

 リンター裁判官は陪審員に「当法廷において取り調べた証拠は、証拠とすることに法的問題はない。それら証拠を基に被告が有罪かどうかを判断して欲しい」と説示し、審理を終えた。

 2時間後、陪審員代表は「被告人は無罪」との評決を伝えた。

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