高嶺剛監督作品が大きな反響 台湾国際映画祭で特集上映

 

キャリアを貫いた「ふるさと」への思い

 上映前のトークで映画祭プログラマーのウッド・リンさんは「ドキュメンタリーから出発した〈原点〉のような作品、その後は劇映画を撮っても、繰り返されるように〈原点〉である沖縄の歴史、アイデンティティーへの探求がずっと反響している。この〈原点〉を見つめる視座こそが高嶺監督特集が組まれた理由」と語った。

 『サシングヮー』の中でも登場する高嶺監督の家族の肖像写真やもう戻れない幼い頃の記憶は、後の劇映画であり最新作でもある『変魚路』(2016年)まで度々現れた。それは「原点」のシンボルである。

 もう一つ、『パラダイスビュー』(1985年)に始まる劇映画で描いた「純粋な沖縄」の世界観が、常連の役者たちも年を重ねて『変魚路』まで成長したこともある。それは劇中の役でありながら、現実の世界と一緒に変化しつつ、沖縄の「現在」に辿り着いたという意味合いもある。沖縄伝統の連鎖劇という形式にこだわった高嶺監督の映画世界には、古くから伝わってきた昔話、信仰、芝居を映画内の時空で再現している。その時空が「映画」という媒体に記録された「もう戻れない時間」であることは、劇映画よりもむしろドキュメンタリーの本質に近いのではなかろうか。

沖縄語の世界

 高嶺監督の作品特徴はほぼ全編ウチナーグチで話された劇中世界と空想的な奇妙なファンタスティックな雰囲気が大きな魅力といえる。今回の特集で他に選ばれたのは、本土復帰直前を背景にした『パラダイスビュー』(1985年)と『ウンタマギルー』(1989年)。二作品とも小林薫と戸川純が主演で、日本文化に侵入されていない純粋な沖縄の風土を魅せてくれた。世界が変化しつつ、新しい世界に戸惑いながら適応する人々やその激動の時代がユーモラスに表現された傑作だ。

『ウンタマギルー』映画スチール Untamagiru©1989 PARCO

 90年代の作品として選ばれたのは台湾と直接関係がある『夢幻琉球・つるヘンリー』(1999年)だ。大城美佐子が主演で、ハーフの息子のヘンリー役と一緒に、台湾へ逃げ込んだ映画監督を探す旅が描かれている。現代の沖縄に残された歴史の遺産、そして視覚的に肌の色で表されたミックスルーツの象徴で、沖縄の悲劇的な運命を見せてくれた。

 最後の一本は近年の新作『変魚路』(2016年)、その特殊な世界観の集大成であり、連鎖劇の構成を活かした実験映画のような本作は、度々過去に出た要素が現れる。沖縄風土に混ざって記憶の喪失と再現を求めている常連の役者たちが登場し、シュールリアリズムで包まれたのは、同じくあの「原点」である戻れない過去の時間、またその現実では掴めないアイデンティティーである。

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