『自立自尊であれ』 仲井眞弘多元沖縄県知事が振り返る県政

 

 沖縄の主力産業である観光業では、仲井眞氏が「年間の観光客1000万人」との目標を掲げ、海外からの航空便の誘致や受け入れ体制の整備を進めたことはよく知られる。なかでも仲井眞氏が特に力を入れたのが、発着回数がすでに限界に近くなっていた那覇空港に第二滑走路を建設し、その能力を高めることであった。しかし、工期は7年もかかり、約2100億円もの事業費の財源確保も見通しが立たない。

 本書では、2012年12月に成立した安倍政権に強力に働きかけをして工期を5年10カ月に短縮し、事業費も沖縄振興予算とは別枠で計上してもらう約束を取りつけたことが明かされる。

 こうした受け入れ体制の整備で沖縄の観光客数は順調に増加を続け、2018年度にはハワイを超える1000万人を達成した。仲井眞氏の狙いどおり、観光業が牽引役となり失業率は全国平均並みとなった。

 コロナ禍によって沖縄への観光客は一時的には大きく減っているが、仲井眞氏は「沖縄の国際観光はまだ始まったばかり。沖縄には国際観光に向いたファンダメンタルズが十分にあり、まだまだこれからですよ」と、コロナが収束した後に再び観光業が上向くと期待する。

国との健全な協力なくして

 仲井眞県政時代には、地方自治体が自由にその使途を決めることができる一括交付金制度が実現した。予算の使い道を全て財務省が差配してきた日本の財政システムを根本から変えるこの制度。財務省をはじめとする霞が関は容易には認めようとしなかった。本書では当時の民主党政権を相手に実現に至るまでの交渉の一端が明かされる。

 <県庁組織の全ての知恵と労力、人を結集して時の政権に当たりましたよ。大臣とか政府のトップはもちろん、内閣府の沖縄担当部署や財務、関係各省庁を片っ端から廻り、「地方のことは地方にまかせてほしい」「沖縄地域の独自性を尊重して下さい」とお百度を踏み、拝み倒しましたね>

 仲井眞氏によれば、2012年に創設されたこの制度は、当時の野田佳彦首相らが大きく後押ししてくれたとのことで、「地域主権」を掲げた民主党政権時代だったからこそ認められたという。

 <あらゆる面で改革を必要とする「大変革の時代」であったからこそ、遅れてきた沖縄が乗っかりやすい環境が生まれ、歯車がぴたりと合ったような気がします>

 自民党、民主党のどちらの政権を問わず、政府に強力に働きかけて次々と予算を引き出し、それを梃子に新しい経済政策を打ち出したからこそであろう。本書では仲井眞県政の後の翁長雄志県政や玉城デニー県政について多くは触れていないものの、このように不満を表す。

 <私の後の県政の動向をみると、「新基地建設反対」を声高に叫んで政府批判を繰り返すだけで、何ら目新しい実績がないような気がします><このままいけば、国との対決姿勢を強めるだけです。国との健全な協力なくして「自立自尊」の沖縄の将来はないと危惧せざるを得ません>

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