『自立自尊であれ』 仲井眞弘多元沖縄県知事が振り返る県政
- 2021/8/1
- 政治
承認に「公約違反」の批判
経済政策を中心とした本書だが、沖縄県政を振り返るとなれば、米軍普天間飛行場の移設問題に触れないわけにはいかない。
辺野古への移設か、県外移設か。この問題で仲井眞氏は、<私はもし県外移設が実現するなら、それに勝るものはないと考えていました。これは当然のことじゃないですか。諸手を挙げて県内移設を喜ぶ県民などいません>と述べて県知事としての苦しさを垣間見せる一方で、「県外移設」を掲げながら「学べば学ぶほどその困難なことが分かった」とあっさりと断念した鳩山政権の無責任ぶりには、<米国との話し合いもろくにせず、沖縄を弄んだ>と憤慨する。
2013年12月に辺野古の埋め立てを承認するに至る経緯は、本書では淡々と語られている。公有水面埋立法に基づいた行政行為であり、そこには政治や思想が入り込む余地はないとする。だが、埋め立ての承認には、2010年の知事選挙で仲井眞氏が掲げた「県外移設」との公約に違反するとの厳しい批判も相次いだ。本書であらためてこれについて聞かれ、こう答えている。
<私の公約は、最も危険な普天間飛行場の一日も早い返還撤去。政府は県外移設を徹底的に追求すべき、との趣旨です。移設計画を進めるのは日米両政府であり、辺野古移設を進める以上、法令上の問題がなければ埋め立ては承認せざるを得ない。そのことが結果的に普天間飛行場の早期返還に繋がる。現実離れした主張に拘っていては、県民に大きな災厄が起きかねない。県民の安全を守るということは、公約に違反していないと考えています>
埋め立ての承認後、仲井眞氏は「カネで心を売った」などとマスコミに厳しく批判された。本書ではかつて地元マスコミに対する訴訟も考えたと明かし、今も不信感が溶けていないと語る。
自立した経済をどうつくるのか
『自立自尊であれ』とのその書名は、慶應義塾大学を創立した福沢諭吉の言葉「独立自尊」から取ったものだという。大学のホームページによると、その理念は「自他の尊厳を守り、何事も自分の判断・責任のもとに行う」。
1972年の本土復帰以来、5次にわたる振興計画で多額の政府予算が投下されてきた沖縄には、「補助金漬け」などと心ない表現が浴びせられることもある。どうすれば自立自尊の経済を構築できるのか。仲井眞氏はこう語る。
「私たちの世代にとっては、失業率が全国平均並みになるだとか、海外の大手資本のホテルが次々に建設されるなんて夢にも思わなかったことです。私たちの沖縄は今やれっきとした47都道府県のひとつとなり、負んぶに抱っこではない県となったのです。ベースはできたのですから、あとはそれをいかに伸ばすか。努力していけば、特別な補助金を必要としない時代もくるはずです」
仲井眞県政でいったい何が実現でき、何が課題として残されたのか。本書はその記録である。