玉城流いずみ会・又吉家元芸道70年 慰霊の日に込める「踊りは祈り」

 

 同じ那覇市内で道場に通いやすくはなったものの、当時玉城盛義道場は人がいっぱいで又吉さんが入る余地がなく悩んでいたところ、同じく那覇に移り住んでいた全敬氏に「うちの近所に節ちゃん(玉城節子氏)の道場があるからそこに通いなさい」と勧められ、玉城盛義氏の弟子である玉城節子氏の琉舞道場に入門した。

 両師の指導のもと、新聞社主催のコンクールにも次々合格し、教師・師範免許も授与され、やがて自身の道場を開くまでになった。

小道具の白百合を手に思い出を語る又吉さん

今までなかった「鎮魂の琉舞」

 ある時、琉球放送主催で始まった「創作舞踊大賞」に舞踊作品を応募した。昭和59年のことである。当時は古典の演目を踊る舞踊家ばかりで自ら創作舞踊を作る人はほとんど居なかった時代だった。「高校時代の部活動はダンスクラブで、創作ダンスを沢山経験していたので自分で踊りを創って踊ることに抵抗はなかった」と振り返る。白百合を手にもち、戦後の荒野を巡り亡くなった魂を鎮める乙女の姿を描いた。

 琉球舞踊はもともと“御冠船躍“といって王府の歓待芸能だったため、鎮魂の舞踊は存在しない。雑踊といわれる明治以降に作られた舞踊も、民衆の明るさや悲哀を描いた作品ばかりだった。「この作品を作る少し前に平和祈念のイベントに群舞で参加した時、琉舞には鎮魂の作品が無いなと感じた。踊りは元々”祈り“から来ている。沖縄でもエイサーは盆の魂鎮めだし、クェーナやウスデークも祈るために踊る。だから鎮魂を祈る琉球舞踊があってもいいと思った」という。

 池宮正治氏の作詞、高江洲義寛氏の作曲、上里幸子氏の衣裳などの協力を得て出来上がった作品『清ら百合』は創作舞踊大賞で奨励賞を受賞し、以来又吉さんは折に触れこの踊りを大切に踊ってきた。

長女の聖子さんとともに稽古に励む

1000年先の平和を祈る

 今回の自身の芸道70周年記念公演は、6月23日に開催する。コロナ禍で数多くの舞台活動が中止になるなか「芸術文化の歩みを止めてはいけない」と琉球新報社がアートルネッサンスという企画を立ち上げ各方面に呼び掛け、又吉さんも賛同して公演実施を申し込んだところ、日程が6月23日に偶然当たったという。

 慰霊の日の開催決定に運命を感じ、「観客の皆さんとともに祈りを捧げたい」と鎮魂と平和を願う舞踊を組み込むことに決めた。今までの鎮魂舞踊は一人舞だったが、今回は長女の聖子さんとともに親子で踊る二人舞として振り付けた。「実は娘と二人で踊るのは今回が初めて。次の世代でもある娘に、この作品を大切に受け継いでもらいたい」と思いを込めた。

 新作舞踊のタイトルは『千年の祈り』とした。「私の芸道は70年だけど、琉球舞踊はこれからも100年、1000年と続いていく。だけど世の中が平和でなければ伝統は受け継がれない。だからこそ1000年先まで皆で平和を祈る舞台を作りたい」と胸中を吐露する。

公演に向けて弟子の指導も力が入る

 当日は上演前に黙祷も行う。摩文仁での戦没者慰霊祭では人数を制限し関係者のみとしている事もあり、今年は舞台鑑賞という形で鎮魂を祈ってみるのはどうだろうか。

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大野 順美

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一般社団法人ステージサポート沖縄代表。琉球芸能プロデューサー。
東京生まれ。新国立劇場、文化庁勤務を経て、2003年国立劇場おきなわの開場スタッフとして依頼されたのを機に沖縄へ転居。その後(財)沖縄県文化振興会で勤務、沖縄の文学・古謡の事業を担当。2010年組踊を中心とした沖縄伝統芸能の舞台制作として独立、県内外や海外での公演を手掛ける。
大好きな組踊をひとりでも多くの人に知ってほしい&良い舞台が観たいという一心で、組踊と名のつく仕事なら何でもやる人。

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