オリオンビールは「沖縄の公器」であり続けるか
- 2021/6/16
- 経済
5年ぶりの看板商品リニューアル
2年前に経営体制が変わってまもなく、オリオンビールは自社商品についての消費者調査を行った。この調査で社員らが衝撃を受けたのが、看板商品である「オリオンドラフト」の評価だったという。
「商品名を隠したときより、オリオンドラフトと事前にわかってもらってから飲んだ人の評価が低かった。おいしいビールというより、ただ、身近なビールという感覚で飲まれていた」
ブランドマネジメント課の吉田直樹課長はそう苦笑いする。特に 30代から50代の消費者の評価が低く、ブランドの立て直しが課題となった。議論を重ね、たどりついた答えが「沖縄のビール」という原点だった。
「伊江島出身の社員がいて、島では小麦を生産している、と。名護の工場から近いこともあり、大麦の生産もできないかということが話しの発端だった」(吉田課長)
大麦は全量、伊江島産のものを使うことにして、すっきりした飲みやすさに澄んだうまみを残しながら、ビールらしい飲み応えにこだわってできたのが、去年6月に発売された「オリオン ザ・ドラフト」だ。これぞ、ドラフトビールという思いが込められている。実に5年ぶりのリニューアルとなった。
「コロナ禍でリニューアルの効果は図りづらいが、リニューアル後は前月の1.5倍の売上げになった」(同)。
今年3月には間髪入れず、製造過程で炭酸ガスを逃がさない工夫を加え、のどごしにさらに磨きをかけるマイナーチェンジも行った。
このリニューアルは、オリオンビールの商品力を強化しただけではない。石井芳典執行役員は、「工場のビール粕を肥料として伊江島に送り、それを使ってビール原料の大麦を育てる。リニューアルをきっかけに、島の産業も活性化することになる」と話す。
ストロング系廃止の大転換
オリオンビールはもう一つ、大きな決断を下している。19年5月に始まったアルコール度数9%の缶酎ハイ「ワッタストロング」の生産を、わずか半年あまりでやめてしまったのだ。
低価格でアルコール度数の高いストロング系酎ハイは、手軽に酔えることで全国的に売上げを伸ばしている。沖縄では、県民の可処分所得は全国平均を下回る一方、家計消費支出に占める酒類への支出は全国並みになっているという統計もあり、特にお酒が好きな県民性がある。その沖縄でストロング系酎ハイをやめることで、オリオンビールは取引先から首をかしげられることもあったという。
「沖縄ではアルコール依存症、路上寝が社会問題になってきた。メーカーとして責任もあり、そこを変えていこうという経営判断があった」(石井執行役員)