「給食しか食べるのない」児童の冬休み コロナ禍で教師にできることは

 

 Aはマスクのヒモを結び終わる前に、彼に話し掛けた。「昨日はお母さん遅かったのか。お風呂入れなかった?」。もう何度か、同じやり取りをしている。

 彼はあっけらかんとした様子で答えた。「お母さん、夕方にはいたよ。ご飯も食べたよ。お風呂入るの忘れてた。鬼滅見てた」。ご飯を食べたということが聞けて、Aは安心した。

「できるだけ多く食べてほしい。休みに入ったら…」

 この日の終業式は新型コロナウイルス感染防止のため、体育館には集まらず、各学級で校内放送を使ったリモート形式の終業式が開かれた。教室での式の後は、みんなで掃除をして、給食を食べてから下校する。下校したら、次の登校日は翌年の6日。Aは放課後が近づくにつれて、気持ちが暗くなっていった。そして給食の時間、Aはわざと、彼とは違うグループの席で給食を食べた。

 彼は何回もおかわりをする。最初の頃は「めっちゃ食べるな」「もうお米3回目だよ、すごい」とクラスメートから褒められて、彼はすごくうれしそうにしていた。

 だけど次第に、「食べ過ぎだろ」「他がおかわりできん」と言う子も出てきて、気にした彼はおかわりをする前に必ず、「先生、食べるよ」とAに小さく声を掛けるようになった。

 終業式の日、彼と違うグループで食べることにしたのは、彼はAがそばにいるとおしゃべりばっかりで、食べることに集中できないからだった。「特に今日は、できるだけ多く食べてほしい。休みに入ったら、きっと十分に食べられない」。Aはまた胸が苦しくなった。

 「給食しか食べるのない」と彼から直接聞いたのは、7月頃だった。だからあんなに食べるのかと激しく納得した後、気付けなかった自分があまりにも情けなくて、Aは彼と別れた後で泣いてしまった。「教師としてこんなことでどうするの」。

目に見えない貧困がある

 その日は日曜日で、Aは不足していた教材づくりのために教室で作業をしていた。Aの教室は1階で、中庭に面している。彼は学校で遊んでいて、Aが教室にいることに気付き、中庭から「何してるのー」と笑顔で声を掛けてきた。しばらく教室で2人きり、おしゃべりしたり、作業を手伝ってもらったりして過ごした。そのときに、家族のいろんな話しを聞いた。

 彼のお父さんは週に一度、週末にしか帰ってこないこと。お母さんが最近、昼の仕事とは別に、夜はコンビニで働き始めたこと。時間がたって店頭に出せなくなった弁当を家に持ち帰ってくるようで、彼はそれをごちそうだと思っていること。彼は何も気にしていない様子で話していたけど、「でもお腹すく」「弁当なかったら食べるのないよ」と言ったときの表情は暗かった。

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