旅行社社長が語るコロナ禍のリアル(下)

 

——2018年9月に台風21号が発生し新関西空港が一部水没し大混乱を来した際、一部の台湾の乗客が台北駐日経済文化代表処大阪分処に「ホテルを手配し、速やかに貸し切りバスを出して迎えに来い」と、まるで海外公館をサービス機関並みに捉えていました。その意識は、昔も今も変わらないんですね。

「そうかもしれません。そんなトラブルが続き、これでは通常の業務にも支障を来すと考えた上司が『このままでは仕事にならない。これからは旅行者も増えるはずだから、いっそ君が旅行社を作ったほうがよい』と言われ、26歳で立ち上げた次第です」

——林さんとしては予想もしなかった展開ですね。

「正直最初の3年間は大変でした。上司は『いつでも手伝うよ』とは言ったものの、知らないことだらけでした。台湾の旅行業界の内情も知らないで始めたので、沖縄で受注した売り上げを回収できないこともありました。20代で借金を作ってしまい、途方にくれたものです。しかし、私は『台湾生まれ沖縄育ちのうちなーんちゅ』です。中学から沖縄にいるので、うちなーんちゅの同級生、知人から『インバウンドだけが旅行社じゃない。沖縄から台湾に行きたい人もいっぱいいるので、連れていくことも仕事だ』と助言され、航空券やホテルの手配業務を始めることになりました。インバウンドとアウトバウンド両方やってきたので、双方と関係性がもてるようになり、今日に至っています」

台湾側のニーズを知って

——台湾、沖縄双方の文化に詳しく、大交易会や歴史探訪、総統就任式などテーマ性を重視したツアーは御社ならではの面目躍如と言ったところですね。受け入れには課題があるはずです。県台北事務所には、もっともっと街に出て台湾の人々の肌感覚に触れてほしいと注文を付けました。沖縄側が取り組むべき課題とは?

「台湾側のニーズを知ってほしいことです。料理で言えば、設立当初は中華がほとんどでしたが、今は和食も取り入れています。ソーキそばや豚の角煮などは台湾にもあるので珍しさは少ないです。中華の本場台湾から言うのは酷かもしれませんが、台湾には北京、広東、四川、上海、湖南、雲南、回教……あらゆる地域の中華料理があるので、沖縄で味わう中華として一工夫ほしいところです。台湾の海鮮料理の魚は養殖が多いので、沖縄に来て食べたいのは天然の地魚や健康島野菜です。それらを食材として中華に生かすなど“琉球中華料理”があってもいいですよね。

 それと、台湾から見れば沖縄は日本の一県なので、新鮮な刺し身や天ぷら、蕎麦などの和食はもちろん『和の文化』に憧れています。土産物にしてもそうです。干し貝柱や高級昆布、どんこ椎茸などの食材は人気が高いです」

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