転換期の沖縄農業(上) 農家と農地、5年で急減

 
沖縄県内では農家、農地がともに減少している(資料写真)

 農業版の国勢調査といえる「農林業センサス」の2020年版(以下、20年センサス)で、県内の農家数と耕作放棄地を除いた経営耕地面積は、ともに2割以上減った。「ついに、農業離れが農地と労働力の両面で進むようになった」と指摘するのは、東京農工大学農学研究院の新井祥穂教授(49)。沖縄県内各地を調査してきた新井教授に、現状と課題、打開策を聞いた。

 新井教授は、グラフを示しつつ、こう驚きを語った。「離島は、沖縄本島に比べると農地の減り方が緩やかで、05~15年の間は踏みとどまっている印象があった。それが2割くらいの減少になり、とうとうきたかと、私自身もショックを受けている」

 農林業センサスは5年に一度行われていて、15年と20年を比較すると、沖縄県内の経営耕地面積は21.4%の減少となった。これは、本土復帰する前年の大干ばつとその後の混乱から離農が激化した1970~75年の23.7%減に次ぐ下げ幅だ。

 ここまで減った理由の一つが、新井教授が「第2次サトウキビブーム世代」と呼ぶ1935〜54年生まれが離農したこと。この世代は復帰後から80年代半ばにかけて、サトウキビの生産者価格が大幅に引き上げられるといった良い時代を経験しており、層が厚い。

 「この世代が高齢化し、いよいよ農業から退出している。下でバトンを受ける世代の少なさが表面化した格好だ」

複合経営がカギ

新井祥穂教授

 離島では、5ヘクタール以上の経営が10年以降むしろ減っている。考えられる理由の一つは「農地市場がまだ競争的」つまり、地権者が強く借り手が弱い立場にあるということ。この状態だと、まとまった農地を借りることが難しく、飛び地のように農地が点在して効率が上がらないので、規模拡大の意欲がそがれる。

 ほかの理由としては、▽規模拡大に対応した肥培管理技術が確立されていない▽広い面積を必要とするサトウキビよりも、果樹や野菜といった狭い面積で高い収益を上げる作物に農家が可能性を見いだし、農地が余る▽16年からは沖縄県内も人手不足が指摘されるような好況期だった―といったことが考えられる。

組織による農地維持も

 「農家が農地を経営上峻別(しゅんべつ)するようになり、条件の悪い土地をついに見放すようになったのではないか」

 こう見立てる新井教授はすべての農地を維持することには懐疑的だ。沖縄県内は法人化していない個人経営が多く、「農業で食べないといけない農家に条件の悪い土地まで押し付けるのは厳しい」。条件不利地も維持したいのであれば、組織を別に用意すべきと話す。

 「農業以外で所得をある程度保障されている構成員からなる製糖工場や土地改良区、農協といった組織による農地維持の活動が考えられるのではないか」

 曲がり角にきている沖縄農業。今後も発展を続ける方策は「複合化」だという。野菜や果樹は収益性が高い一方で、亜熱帯の北限というむしろ不安定な気象条件に収量が左右される。

 「高い収益をもたらすけれど不安定な部門と、確実に収益をもたらすであろうサトウキビ、牛の小規模頭数飼いを組み合わせ、何かあっても持ちこたえられる経営にするのが現実的ではないか」

(聞き手・山口亮子)

(記事・写真 宮古毎日新聞)

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