SCOM・藤本代表に聞く 地元参加型ファンドで15億6千万円調達、北部テーマパーク

 
SCOMの藤本和之代表

給与を上げて人材確保 エスコンの設立背景とは

ーエスコンは2019年12月に設立し、県内の中小企業への出資や経営支援を行っています。設立の経緯は何だったのでしょうか。

 「エスコンのビジョンは『沖縄で、1万人のくらし変えていく』ということです。そのためには、非常に根深い所得の課題を解決しないといけません。沖縄は99%以上が中小企業で、労働者の70%が中小企業で働いています。エスコンはこの中小企業に出資し、経営力を還元し、職員の所得を上げ、しっかり利益を上げてもらうことを目指しています」

 「私も中小企業の一経営者です。一般的には違う印象を持たれるかもしれませんが、給料は多く払った方が経営が容易になります。例えば、月の基本給13万円で募集を出しても応募は少ないと思いますが、23万円にすると応募は格段に増え、それまで自分の会社に応募をしなかったような技術や経験を持った人材も来てくれるようになります。働き方の質や個々のモチベーションが上がり、自らをコントロールできる人が増えればマネージャー職を減らして教育コストを下げることができるので、基本給の上昇分が丸々コストアップするということはありません。私たちもまだ沖縄で設立10年ほどで社員70人くらいの小さな会社ですが、新卒も含めて今は基本給30万円で募集を出していて、都市部の方からも能力の高い方が応募をしてくれます」

 「大体の中小企業は利益が出てから分配しようとしますが、利益は人が生むので、能力のある人材がいないといつまでも利益が出ないで給与が上がらない。その意味で、中小企業は非常に難易度が高い経営をしているんです。そうではなく、給与にお金をかけて能力のある人材を確保し、その人たちに出してもらった利益で、給与にかけた先行投資を回収していく。こういう課題解決をしたくて、エスコンは中小企業向けのファンドをつくったんです」

「金融と株式」の仕組みを一般化

株券のイメージ写真

ー今回のテーマパーク事業のファンド組成がどのように中小企業支援につながると考えますか。

 「これまで豆富の食品製造をする池田食品さんなどの中小企業に出資をして、成長をして、利益を上げていきましょう、という支援を行ってきました。今回はその逆で、中小企業からお金を集めて、5年後、10年後に人の動線も含めて沖縄観光のあり方が変わる程の可能性を秘める事業に出資をするという流れです」

 「今回のようなファンドがあることで、これまでは県内でも大手の企業しか関わることができなかった規模の事業に対して、中小企業でも手を挙げれば関わる事ができる。経済的なリスクを取って、事業がうまくいけばリターンも発生する。当事者として関わることができる選択肢ができたことで、また同じような状況が出てきた時に『前回関与できたんだから今回も関りたい』とまた当事者意識を持ってその事業を見ることができるかもしれません。私はその感情が大事だと思っています」

ー今後の展望をお願いします。

 「本来、金融とか株式の仕組みというのは非常に便利なものです。株を活用して資金を調達することで実現可能な事業の幅が広がりますし、外部株主に経営に入ってもらい、それぞれの強みを生かしながら複数人で経営をすればより間違った方向にいく可能性を防ぐこともできます。しかし、株式会社の中小企業にはそういった発想がそもそもないことも多いです。それは、本来持っているはずの選択肢と武器を使えていないということだと思います」

 「今回はテーマパーク事業に出資するための『箱』をつくったことで、中小企業も出資をすることができました。ということは、箱がないから資金が集まらず、実現できていない事業は、これまでにも割とあるのではないでしょうか。私たちは元々金融畑ではないですが、勉強をすればファンドを起こすことができるんです。ビジネスとしてちゃんと利益も出ていますし、僕たちみたいな素人でもできるんだから『自分にもできるんじゃないか』と感じてやってみる人が増えてほしいです。沖縄の中小企業の経営が良くなり、利益が生まれ、そこで働く人の所得を増やすため、『金融と株式』という仕組みをもっと一般化していきたいです」

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長嶺 真輝

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ながみね・まき。沖縄拠点のスポーツライター、フリーランス記者。
2022年3月まで沖縄地元紙で10年間、新聞記者を経験。
Bリーグ琉球ゴールデンキングスや東京五輪を担当。金融や農林水産、市町村の地域話題も取材。

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