沖縄で1カ月間の野球トライアウト 国内初の本格「ウィンターリーグ」とは

 

鷲崎代表が味わった「悔しさ」

オンラインでインタビューに答える鷲崎一誠代表=10月24日

 人口150万人弱の離島県である沖縄で開かれるイベントとしては壮大な計画に思えるが、どのような経緯で開催が決まったのか。事の発端は、鷲崎氏が過去に味わった悔しい経験だ。

 鷲崎氏は福岡県出身。1991年生まれの31歳。大学野球界の伝統の一戦である早慶戦の舞台に憧れ、5番・三塁手のレギュラーで活躍した佐賀西高校から慶應義塾大学に進学した。部員約200人で4軍まである大所帯のチームで、2年に上がるタイミングで3軍に昇格。「順調にステップアップしていけば、4年の時には試合に出られる」とやる気に火を付けた矢先、その見通しに暗雲が立ち込める出来事が起きる。

 一つ下の代に、甲子園で優勝した高校の4番打者が大型ルーキーとして入学。しかもポジションは同じ。三塁手は1人しかベンチ入りができないため、「自分が2年に上がった春からその選手が試合に出始めたので、向こう3年が真っ暗になりました」。二塁手にコンバートし、4年夏についに1軍入りを果たしたが、ベンチ入りは叶わず、4年間公式戦に出場することはなかった。

 「正直、レベルの差なんて紙一重。打席に立てれば打てる自信はありました」と悔しさをにじませる鷲崎氏。卒業後に千葉県の社会人チームでプレーしている時、1月中旬から2月中旬に行われる米国カリフォルニア州のウィンターリーグに参戦した先輩がいたことがきっかけで、自身も「自分の現在地を確かめたい」「これまで頑張ってきた成果を出したい」と挑戦を決意した。

 渡米すると、そのウィンターリーグにはメジャーリーグのスカウト陣も足を運び、さらに独立リーグの監督が各チームの指揮を執って選手の実力を直接評価していた。完全実力主義の世界で、鷲崎氏も本塁打を放った翌日から4番に座らされるなど、実戦の場で評価されるやりがいをひしひしと感じながらプレーすることができた。契約には至らなかったが、実際に現地のチームからスカウトされ、悶々とした気持ちは「完全に成仏できた」と野球に区切りを付けることができたという。

 「特に大所帯のチームであれば、自分と同じような悔しい思いをしている選手はいっぱいいる。そういう選手がちゃんと評価してもらい、陽の目を浴びることができれば、日本の野球界全体の底上げにもなるんじゃないか」。自らがウィンターリーグに参戦してから7年。ついに思いを形にした。

ジャパンウィンターリーグのロゴ(JWL提供)

 これらの経験を基に、こう呼び掛けた。

 「チャレンジできる場があるので、ぜひ勇気を出して参加してほしいです。こういう舞台があることで、もしかしたらメジャーリーガーになれるかもしれない。プロを目指していなくても、私のように『悔しかった気持ちを試合にぶつけたい』でもいい。いろいろな思いを持った選手がごちゃ混ぜになり、本気でプレーできる場をつくっていきます」

沖縄は「観光地」と「野球環境」が魅力

JWLの一会場となるANA BALL PARK浦添

 沖縄開催を決めた理由はウィンターリーグの大前提の実施条件である温暖な地域であることに加え、地域の特色も大きな要因となった。

 まず一つ目は観光地であることだ。カリフォルニアは参加選手らがバカンスを楽しめ、会場では音楽などのエンターテインメント性もあって観客を惹き付ける工夫が凝らされていたという。参加者や観客を魅了し、地域にお金を落とす仕組みを構築できれば、地域振興にもつながって事業に継続性も生まれていく。

 さらに毎年、NPB球団が春季キャンプを張る沖縄には、他県であれば珍しい程の一級レベルの球場が各地にある。今回使用されるアトムホームスタジアム宜野湾は横浜DeNAベイスターズ、コザしんきんスタジアム(沖縄市)は広島東洋カープ、ANA BALL PARK浦添は東京ヤクルトスワローズ、オキハム平和の森球場(読谷村)は中日ドラゴンズ2軍が使用している。

 夏の甲子園で沖縄の高校が試合をする時は「街中から車がいなくなる」と言われるほど、沖縄はもともと”野球熱”が高く、鷲崎氏は「沖縄は野球が好きな方が多いこともあって、この企画も僕が説明する前に企画書だけでどんどん話が進んでいきました」と嬉しそうに振り返る。

冬場の観光振興に期待

沖縄振興への期待感を語る知花真斗副代表=10月24日、オキハム平和の森球場

 観光業が基幹産業である沖縄にとっても、冬場のオフシーズンにおける誘客装置としてJWLに対する期待は大きい。ジャパンリーグ副代表を務め、県内の野球関係者とのパイプ役を担う読谷村出身の知花真斗氏(34)はこう語る。

 「国内外から多くの人が長期で来るので、是非とも観光など沖縄振興につなげたい。海に入れない時期でも、スポーツでの誘客には可能性がある。10年計画で事業をしっかりと根付かせていきたいです」

 MVP賞に周辺ホテルの宿泊チケットを提供するなど、関係市町村のホテルや観光協会などを巻き込んでリーグを盛り上げる準備を進めているという。試合の合間に音楽コンサートを開き、観客を集める仕掛けも準備中だ。

 自身は浦添商業高校、亜細亜大学で投手としてプレーした知花さん。沖縄の選手にとって新しくチャレンジできることに対しても「こういうアピールをできる場はとても価値があると思います。以前は沖縄の選手は経験が少なく、なかなかプロに行けない時期もありました。是非沖縄の選手にも挑戦してほしいです」と期待感を示した。

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長嶺 真輝

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ながみね・まき。沖縄拠点のスポーツライター、フリーランス記者。
2022年3月まで沖縄地元紙で10年間、新聞記者を経験。
Bリーグ琉球ゴールデンキングスや東京五輪を担当。金融や農林水産、市町村の地域話題も取材。

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